夢うつつ

紅蛇

夢うつつ

 部屋の隅っこの小さな机に花が活けてあった。隅っこは一番暗いところ、影があるところ。影が深く見えるのは、真っ黒な水筒に花が活けてあったから。真っ黒な黒猫さんのような花瓶に黄色い瞳が輝いてる。花は黄色、真っ黄色。太陽みたいにキラキラしてる。

 今の時間は零時になったばかり。良い子が寝ているはずの時間。真夜中が始まった。大人と不可思議が活動を始める時間。夢を見る時間の始まり。

 隅っこに置いてある、花瓶の方から音が聞こえる。


「カサカサ」


 不思議で奇妙。虫かな? 黄色い花びらが落ちたかな? それとも全く違うものかな? 見つめる、眺める、真っクロ黒。目線を反対側に向ける。黒の反対色。真っ白に曇ったガラス。触ってみると冷たいはず。でも触らない、動かない、息をひそめる。白い枠の窓が四つ並んであって四角形になってる。四角い、四角、四つの角。


「カサカサ」


 音がまたする。素早く目線を戻すと驚く。奇妙な生き物がいる。絵本で見るような変なやつ。深い森と同じ色の格好してる。トンガリ帽子にボロ雑巾。森の木々と枯葉色。ジト目と目が合う。黄昏の瞳と目が合う。フワフワした気持ちに変わってく。


「こんばんは」


 寝ているはずの悪い子が口開く。


「なんで寝てない。お前、さっさと寝ろ」


 掠れ声が返ってくる。

 ヘンテコな組み合わせ。凸凹声が部屋に響く。活けてあった、黄色い花は閉まってた。黄色が緑色に変わってた。閉まって蕾に早変わり。


「おじさん小人なの? 後ろの花はどうして閉まっちゃったの? どうして僕を寝かせようとしてるの?」


「質問が多い。花は眠りに行ったからお前も寝ろ。大きくならないぞ」


 そう言ってボロ雑巾から何かをガサゴソ探してる。鍵かな? 眠り薬かな? それとも全く違うものかな? 取り出すものはシガレット。大人が吸ってる煙のタバコが口にある。手にはマッチ棒、箱に摩ってる。


「シュッ」


 音がして真っ赤な光。火が付き口元へ。


「カサカサ」


 ポケットに閉まって一服する。


「それで……おじさんは小人なの?」


 悪い子は同じ質問、もう一度。


「ふぅ……逆に聞くが、それを知ってどうするんだ? 友達に言いふらすか? 俺が小さ

いって笑うのか?」


 悪い子よりも悪い子が違う質問し始める。

 煙がプカプカ浮いていく。上へ、天井へ、飛んでいく。最後には消えてった。灰色、グレー、青色。


「そんな卑怯なことはしないよ。ただ小人を今まで見たことなかったから」


おどおどドキドキ答える声。


「そうか……、質問はそれで終わりか? じゃあもう夢を見る時間だ」


 面倒くさそうな声がこだまする。

 大人も寝静まる時間。沈黙し始める時間。イビキと寝言の合唱のみ。


「いやだ、寝ない。だっておじさんがまだ、自分の口で小人だって言ってないから」


 勇気を出して抵抗する。半分眠りの世界へ旅立つ目で言い放つ。


「言えばいいのか? そうしたら寝ろよ」


 勇気を簡単に踏み潰す。タバコと一緒にグリグリ壊してく。やる気のない目で言い放つ。


「うん寝る。だから教えて……」


 目が閉じ切って眠りに落ちる。悪い子はやっと眠りに落ちる。音もなく瞳が閉じ切って、小人はため息やれやれと。最後に言った言葉はなんだ? 小人かな? おじさんかな? それとも違うものかな?



「俺は小人じゃない。夢の住人だ」

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夢うつつ 紅蛇 @sleep_kurenaii

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