第4話
「やっぱりネコ。素早いわね」
あたしはミケに追いつくことは諦めてゆっくりと歩いて神社に向かうことにした。
ま、目的地はわかっているし、急がなくてもいいわよね。
そう思ったのは一瞬で、あれ? でもこんな時間にここを歩いてるのを誰かに見られるのはマズイよね。もしお母さんに知られたら怒られる。急いで行こう!
「はぁ、はぁ、やっと追いついたニャ……、ニャ! にゃんでまた走り出すニャ!」
後ろからアルの声が聞こえた気がしたけど気のせいよね。
誰にも姿を見られないようにピュ~と走りぬけ、大日神社へと再び訪れた。
「ミケ~、いる~?」
あたしが大声を上げると、境内の下で動く影があった。
「あ、ミケ!」
「あれミャ? 先ほどの?」
なぜ来たのか分からないといった表情だ。
あたしは指を1本立てながら質問した。
「1つだけ聞きたいことがあるの!」
「なんですかミャ?」
「もしかして、そこに子ネコっている?」
ミケは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに穏やかな表情になり、
「はい。その通りですミャ」
「じゃあ、幽霊の真似をしていたのは」
「ええ、ここを追い出されないようにするためですミャ」
おお、すごい。大将が言っていたことは全部合っているみたい。
「いつもでしたら、見つかっても移動すればいいのですが……」
そこまで言ったところで、
「ミー!」
子ネコの声が聞こえ、1匹、また1匹と出てくる。
「えっと……、1、2、3、4、5」
何匹数えたのかわからなくなってきた。
改めて勢ぞろいしたところで数を数えるとなんと、全部で15匹!
「え? ネコって一度にこんなに生まれるものなの?」
「私もこれだけ1度には初めてですミャ」
「す、すごいわね……」
「ええ……」
しばしの沈黙が流れていると、
「や、やっと追いついたニャ」
息を切らしたアルが境内に現れた。
「あれ? なんでアルまでここに?」
「一人で出歩くのは危険だからって大将が」
「それでアルが来てくれたんだありがとう」
アルはそんなあたしに手を上げて応えてくれたんだけど。
「あれ、変ニャ? なんでミケさんが先にいるニャ?」
変なことを言っているのはアルだと思うけど?
「さっき下で光る目を見たニャ。ミケさんの目かと思っていたけど違ったのかニャ?」
「子ネコはここに全員いますし、いったい誰でしょう?」
も、もしかして。本物の幽霊……?
あたしたちがカチコチに固まっていると、がさがさっと周囲の木々の一部から音が、そして、バサッと何かが飛び出してきた。
「キャ!」
あたしは短い悲鳴を上げた。
その出てきた物体は、
「え? イヌのような体にシカの顔。これって」
「ば、バケモノニャ~~!!!」
アルは悲鳴を上げ、あたしもミケも残して走り去ってしまった。
バケモノ扱いされた生き物もアルの悲鳴にビックリしたのか反対の方向に走って逃げていってしまった。
あたしとミケは顔を見合わせため息をついた。
※※※
レストラン『注文の多い料理店』へ戻ると、お店の端っこでアルが毛布をかぶってうずくまっていた。
「ゆ、幽霊は大丈夫ニャんだが、バケモノはダメニャ。あんな恐ろしいものが近くにいるニャんて……」
大将はあたしを見つけると、どうしたのか聞いてきた。
「さっき神社に行ったら、体はイヌで顔がシカの生き物に会っちゃって」
それだけ言ったところで全てを理解した大将は、一度奥に入ると、1冊の本を持ってすぐに戻ってきた。
「ほら、アル。きみが見たのはこれだろ」
動物図鑑のページをアルに見せる。
「ニャ、確かにこいつニャ! ニャんだ。ちゃんという動物なのかニャ」
その開かれたページに載っていたのは、キョンという生き物で、イヌくらいの大きさでシカのような顔をしていることで有名な動物だ。このあたりでは割と目撃されているはずなんだけどアルは知らなかったみたいね。
もちろん、賢いあたしは知っていたけどね。
まぁ、大将もミケも知っていたみたいだけど。
「アルって幽霊の話を聞いたときの大将みたいだったよ。やっぱり飼い主に似るのね」
「うう、恥ずかしいニャ。あと置いて帰ってきてすまないニャ」
あっ! そういえばそうよね。全くか弱いレディを残すなんて!
「じゃあ、今度、ここでクリームソーダおごってね」
あたしはとびきりの笑顔で答えた。
「本当に申し訳なかったニャ。どうか命だけは!」
「なっ! そんな事言ってないじゃない!」
こんなに笑顔で接しているっていうのに! もうっ!
「まぁ、それはいいわ。そうそう、大将! ミケのところすごいのよ!」
「何があったんです?」
「なんと、子ネコが15匹もいたのよ!」
「え、15匹? 全部ミケさんの子で?」
大将は驚きの声を上げる。
その反応の良さにあたしはトーンを上げて、
「そうなの! すごいでしょ!」
「確か同時に18匹がギネス記録だからありえないことではないけれども、15匹はスゴイですね」
へぇ~。ギネスだと18匹なんだ! それもビックリ!
「大将は色んなこと知ってるね! それと、ミケさんと子ネコたちから、カルパッチョの味の感想なんだけど」
あたしは聞いたままを大将に伝えた。
牛肉の味は外では味わえないほどジューシーで、その風味がついた野菜たちがまた違った食感を味あわせてくれる。ほろほろと柔らかい牛肉を食べていたかと思うと、サツマイモやにんじんのしっかりした歯ごたえが満足感を与えてくれるって言っていたわ。
それから、子ネコたちからも、おいしいとかこんなの初めて食べた。とかもっと食べたいとか色々。
「そうそう、最後にみんなで食べるご飯はやっぱりおいしいミャって言ってたよ」
その言葉を聞くと大将は静かに微笑んだ。
「あっ! やばい、そろそろ帰らないと」
ふと視界に入った時計を見るともう急いで帰らないとお母さんが帰ってくる時間だった。
「それじゃ、またね!」
大将たちに手を振りながら、全速力で家路へとついた。
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