インタビュー・ウィズ・茶々

ぬるでば

インタビュー・ウィズ・茶々

「これから記者カエルは、とある方の独占インタビューに向かいます。皆さま、乞うご期待」


 記者カエルは、茨城県龍ケ崎市にある県立高校の応接室でインタビュイーを待っていた。

 長いソファが2脚と一人がけのソファ1脚がコの字型に配置されている。

 記者カエルは、入り口を入って左側の長いソファに浅く腰をかけ、手元の資料に目を通している。


コンコンコン


 応接室入り口のドアがノックされた。


「失礼します」


 年齢30歳くらい、スーツを着たいかにも学校の先生らしい男性がドアを開けて入ってきた。

 その後ろに制服を着た女子生徒が先生に隠れるように立っている。


「インタビューを受ける生徒をお連れしました。さ、入って」


 先生は、後ろの生徒に振り返り、部屋に入るよう促した。


「ちっす」


 女子生徒が顎を出すように会釈して挨拶をして、入り口を入って右側のソファに腰をかけた。

 記者カエルと向かい合わせだ。

 その生徒は、身長が150センチそこそこくらいで、どちらかというと背が低い。

 まず目につくのが肌の色だ。

 褐色に日焼けした肌は艶やかで健康そうな色気を醸している。

 体格は、決して太ってはないが、ほどよく肉が付いていて男から見たら「おいしそう」と思うであろう丸みがある。

 おまけに制服が窮屈に見えるほどの巨乳だ。

 髪は、茶色に染めたショートボブで、前髪を垂らして左目を隠している。

 右側の髪を後ろにかき上げて耳にかけている。

 右耳にはピアスが4つ開けられ、きらきらと輝きを放つ。

 そして、決定的に印象づけているのが目だ。

 一言で言えば「凶悪」な目つきをしている。

 つり上がった鋭い目。

 小さめの瞳は三白眼で常に人を睨みつけているようだ。


「本日はよろしくお願いします。まずはお名前をうかがってもよろしいでしょうか」


 記者カエルがインタビューの開始を宣言した。


「茶々だ」


 カエル記者は、女子生徒の凶悪な目で睨まれ気後れしたが、ここで負けてはいけないと自分を奮い立たせて平静を装った。


「あ、煙草吸っていいか?」


 女子生徒が記者カエルに訊いた。


「え、あの、ここは学校ですよね? 学校内で煙草はまずいんじゃないですか?」


 記者カエルが心配して応接室の入り口近くで待機してる先生の様子をうかがった。

 女子生徒を連れてきた先生は、苦々しい顔をしながら小さく頷いた。


「どうやらいいらしいです。私は構いませんので」


 記者カエルが答えた。


「悪いな。一日授業受けててヤニ切らしちまったからさ」


 そう言って女子生徒は制服のポケットから煙草とライターを取りだした。

 慣れた手つきで煙草を一本取りだして口にくわえ、ライターで火をつける。

 大きく一服吸い込んでゆっくりと煙を吐き出した。


「授業のあとの一服はうめえな」


 女子生徒は満足げにつぶやいた。


「あの、インタビューを続けていいですか?」


 記者カエルが申し訳なさそうに言った。


「ごめん、ごめん。インタビューだったな」


 女子生徒がくわえ煙草のまま答えた。


 女子生徒は、尊大な話し方の割に態度は悪くなかった。

 記者カエルは、ワルを気取った子なのかなという印象を受けた。


「噂では、誰にも言えない秘密を抱えていらっしゃるとか」


 記者カエルが最初の質問を切り出した。


「ああ、誰にも言えねえな。だから言えねえんだよ」


 茶々がふてぶてしく答えた。


質問の仕方が悪かったようですクソ小生意気なガキだな。それでは、茶々さんは、とてもすごい秘密をお持ちでいらしゃっるとか」


 記者カエルは、質問の仕方を変えた。


「持ってるぜ。身体の中に寄生虫を飼ってる。萌、ちょっと出てきて」


 茶々が寄生虫を呼んだ。

 すると、茶々の首の皮がもこもこと隆起して中で何かが動いているのが見えた。

 記者カエルは、その様子に目が釘付けになった。


べろん


 茶々の首の皮が破れて中の真っ赤な肉が見えた。

 その肉の中から白い巨大ミミズのようなものがにゅるにゅると出てきた。


「ぎゃーっ!」


 記者カエルがソファから跳び上がって入り口で待機している先生のところまで逃げていった。


「あはは、大丈夫だよ。この子は萌っていう名前の寄生虫だ。悪さはしねえから心配しなくてもいい」


 茶々が煙草を灰皿でもみ消しながら記者カエルに笑いかけた。

 その表情は、凶悪な目つきからふにゃふにゃの垂れ目になっていた。

 どうやら、本当の性格は穏やかな少女のようだ。


「ほ、本当に何もしないんですね?」


 記者カエルは、まだ疑心暗鬼だ。


「しねえって。なあ」


 そう言って茶々は首から身を乗り出している萌という寄生虫にキスをした。


「えー、そういうことなら質問を続けたいと思います」


 記者カエルが、おそるおそる元のソファに戻って腰を下ろした。


「手元の資料によりますと、その寄生虫の食料は茶々さんの体液ということですが、具体的にはどういうものなんでしょうか」


「え、それくの? ちょっと、それは……」


 急に茶々の態度が弱気になって下を向いてしまった。


「え、なに? 言え? えーー、マジで?」

「やだよー」

「ダメなの?」

「分かりました。言います」


 茶々が誰かと会話しているような独り言をぶつぶつとつぶやいた。


「萌の食料は、あたしの愛液と唾液だよ」


 茶々が両手で顔を覆って恥ずかしがった。


「ほほー、愛液と唾液ですか。なんか淫靡な香りがしますね。愛液と唾液をどうやって食べるんですか」


「も、萌は、あたしの身体の中を自由に動き回れるんだ。だから、その、あそこの中に入ってきて、そこで食べていったり、口の中に出てくるときもある」


 茶々は、恥ずかしさに耳まで真っ赤に染めている。


「あの、さっき独り言をおっしゃっていたようですが、どなたとお話をしていたんですか?」


「萌とだよ」


 茶々が恥ずかしそうに答えた。


「萌さんは、会話ができるんですか!?」


 記者カエルが興奮した。


「ああ、できるよ。あたしの脳みそから言葉を横取りしていくんだ」


「そうなんですか、すごい寄生虫ですね。あと、独り言の中で『分かりました、言います』と敬語になっていたところがあります。これはどういうことですか?」


 記者カエルは、茶々の口調の変化を見逃さなかった。


「な、なんでもねえよ。たまたまだよ」


「あひっ!」


 突然、ソファに座っていた茶々が身体をのけぞらせて痙攣し始めた。


「茶々さん、どうしたんですか!?」


 記者カエルが心配した。


「ご、ごめんなさい……言います、言いますから止めてください……」


 茶々が切れ切れに独り言を言った。


「実は、あたしはドMで萌に服従を誓ったんだ。だから萌の言うことには従わなきゃならない。さっきみたいにとぼけたりすると萌から折檻される」


 抵抗できないことを悟った茶々が渋々説明した。


「折檻の内容は?」


「萌は、身体から媚液を出す。それであたしはいかされまくるんだ。いきたくなくても、だ」


 茶々の首から身を乗り出した萌がうなずくように身体を上下させた。


「なんかすごい記事がかけそうです。では最後に、インタビューをご覧になる皆さまへメッセージなどございましたらよろしくお願いします」


 記者カエルが最後の質問を投げた。


「これ、記事になるんだよな。いっそ殺してくれよ」


 茶々は手で顔を覆って天を仰いだ。


「本日は、ありがとうございました。萌さんもありがとうございました」


 記者カエルが言うと、萌が手を振るように身体を左右に二、三度振って茶々の首の中に消えていった。

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