第8報 添付資料:その騎士が語るには
強者国の起こりは実に単純だ。
一人の強者が挑んできた幾人もの強者を打倒し、敗者たる強者を友として迎え入れた。
勝者たる一人の強者は穏やかな生活を求め、友となった強者たちはその願いに協力して小さな集落を築いた。
人類の中で超越した力を持つ強者たちには畏怖され、社会から爪弾きにされて孤独な者は少なくない。行き場のない孤独な強者たちは、新しくできた小さな集落に居場所を求めた。
次第に強者の集落は緩やかに大きく成長していく。
迫害されていた強者たちは自給自足を主として、他所に頼らぬ形態で成長続ける集落を支え始めた。
成長し村へ、そして一つの街へと変化し始めると周囲の国々はその存在を無視することは出来なくなる。
自給自足成り立つその場所では外交圧迫は効果がないと、刺客を送り込み脅威の塊を物理的に排除に動いた。
しかし各国の思惑は外れて強者は次々と送られるそれを無力化し、国に戻れなくなった刺客を庇護下にしてさらに大きく成長していく。
何時しか強者国としての形が形成され、他国から恐れられる存在へと成り上がった。
それと同時に強者国に住まう者に一風変わった志が刻まれることになる。
『弱者を貶めるべからず、そっと見守り慈しもう』、と。
それは今もこの国に生まれ育つすべての強者に受け継がれ、根付いている。
ボロボロになってしまった衣服を巻き込んだお詫びにと新品のものを提供し、国の観光と案内をすると言う二人を送り出した。
謁見室の被害も尋常ではないが、こちらはよくある事なので問題はないだろう。
同じく巻き込まれた鈍色鎧の騎士は気絶こそしていたが、強国王に託された木箱を傷一つなくかばう事に成功している。そちらを優先したから部外者二人に被害がいってしまったのだが、彼にそれをいうのは酷というものだろうか。
「銀騎士、勇者の状態はどうじゃ?」
「…あぁ。魔力こそスッカラカンだが、しばらく休めば問題なく動き回れるだろう。」
今この場所にいるのは強国王と銀色鎧の騎士、つまり俺だけだ。被害状況とその後の予定を立てるために残っている。
しかし二人の頭にあるのはこの場にいた少年達のこと。
「あの勇者はこの後どうする。宗教国へと送り返すか?」
決まっているだろう答えを予想しつつも、念の為にと問いかける。
「そんなもの決まっておる!保護だ、保護!遊戯に参加してくれた礼に、より良い環境を提供しよう!」
満面の笑みで胸を張る強国王に溜息が出た。
「誰が世話すると思ってんだ…」
「そんなものお前に決まっておるだろう、銀騎士?」
「……さっきから何だ、その呼びは。」
嫌そうな気持ちを隠すことなく発した言葉に、強国王はニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「ならば元勇者、と言った方が良いか?」
おそらく先ほどの二人が変わったアダ名で呼び合っていたのを真似しているのだろう。このまま言葉を返していてもロクな呼び名が出てくる気がせず、この問答を無理やり飲み込んだ。
「はぁ…銀騎士の方でいい。勇者の方はこっちで診といてやる、たぶん俺と同郷だろうしな。」
肩透かしを食らったのか、強国王はキョトンとした表情を浮かべる。何時もグチグチと問答を続けると思うなよ。
密かに眉を顰める俺には気付かず、強国王はふと思い出したかの様に口にだす。
「銀騎士。坊主と共にいた神官の娘のことじゃが…」
「あぁ〜、あの嬢ちゃんな。変わった奴だったな。」
やけに自身の事を卑下し、縮こまっていた少女の様子を思い出した。
どこぞの国が密偵として送り込んできたのだとは即座に分かったのだが、今回の騒動では妙な力を見せている。勇者が暴走した後、彼女は何度も攻撃を受けているのだ。
爆発を直撃し、鎌鼬に襲われ、氷の礫にも直撃している。
その度に上半身が吹き飛ばされ、足が切り刻まれ、胴を貫かれているのに瞬時に回復しているのだ。しかし、本人がそれを位に介した様子もない。
「あやつ…気付いておらぬのか?」
「たぶん、な。奇跡的に難を逃れたっつー顔をしてたぞ。」
やれやれと首を振って、チラリと強国王の方へと視線で問いかけると一つ頷き答えを返す。
「あやつも保護じゃな!何よりこれで坊主の親友が出来る!」
「まぁ、あの坊主も無自覚だからなぁ。」
神官の少女と同じぐらい自身を卑下する少年にいい理解者が出来るだろうとは思うが、誰彼構わず囲い込もうとする強国王に呆れ返る。
「うむうむ。か弱き者は皆保護するべきなのじゃ。そうあるべきなのじゃ!」
「お前に言わせれば、この星に住む全生命体は保護対象だろ…」
それなりに強かったはずの自分をも打ち倒し、保護されてしまっただけにどう諌めていいのか迷ってしまう。
これからもこの強国王は送られてくる刺客や勇者、密偵などを誰彼構わず保護していくのだろう。そしてその結果、強者の国は大きくなり更に警戒される事となる。
嫌な連鎖だと頭を抑え、痛む頭に溜息が漏れる。
差し当たって、まずは観光と言う名の偵察に出掛けた神官の少女に移住を提案しに行かねばなるまい。
坊主の満面の笑みと、神官の少女の困惑する表情が頭に浮かぶ。
あの嬢ちゃんも自分と同じく気苦労をかぶるのだろうかと、同士ができるかもしれないことに少し期待してしまう自分もいた。
最強と最弱。 湖中二周 @conaca
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