第7報 強者国で巻き込まれた騒動について
「っ!?国王、すぐにそいつを止めろ!!」
宗教国の物語通りで行けば、ここで勇者が覚醒して魔王を圧倒する所。
しかしそれとは異なる事態に気付いた銀色鎧の騎士が廊下から舞い戻り、唸り声を上げる強国王へと声を飛ばした。
声に反応して強国王が動き出す前に事態が動く。
「グアァ!」
「キャアァッ!」
「うわあぁぁぁん!」
この場から逃げられず固まっていた私たちの近くで爆発が起きた。
爆発の衝撃でそれぞれが別方向へと吹き飛ばされる。
視界の片隅で驚きの表情を浮かべる強国王と、駆け寄ろうとする動きを止める銀色鎧の騎士の姿が映った。
「…ぅ……む、村人くん?」
全身に激痛が走る。
だが私の頭には自分より年下のか弱い男の子の心配しかない。
周囲に鎌鼬による斬撃や氷の棘が突き刺さる中、地面に倒れ伏せる村人くんの姿を見つける。
だが、その姿はすぐに飛来した特大の炎の塊によって覆い隠されてしまった。
「ぁ、ぁぁああああああ!!!!」
喉が震える。
涙が溢れ出す。
せっかく、仲良くなれたのに。
どこか遠くで崖から大岩が落ちたかの様な音が聞こえた。
「このっ、バカ者が!覚醒と暴走は違うはっ!!」
「…怒るところはそこじゃない。」
集中的異常気象は強国王が怒鳴り終わると共になりを潜めた。
その足元にはクレーター、更にその中央には先ほどまで咆哮を上げていた勇者が気を失って倒れている。
私が悲鳴をあげる時同じく強国王は暴走する勇者を止めたのだ、拳で。
普通では怪我で済まない衝撃が起こったが、勇者が五体満足でいるので問題はないのだろう。
「そ、そうだな銀騎士…観客に被害を出すとは何事だ!!」
「……国王、それも違う。」
唸り声をあげて首を傾げる強国王にため息一つ吐いて、銀色鎧の騎士はとりあえず炎立ち昇る方へと指を向ける。そこでようやくやるべき事に気付いたのか、強国王は慌てて駆け出した。
「坊主、無事か!怪我はないか!?」
言うが早いか、村人くんを覆う炎を吹き飛ばして無事を確認する。
「…な、何を」
ふざけたことを言うのだと続けるはずの言葉は口から出ず、その光景に目を疑った。
「ふっ…グスッ……痛い、よぉ…」
「おぉ、すまなかったなぁ。彼奴が無差別に魔法を撒き散らすとは思わなんだでなぁ。この通りゲンコツ落としてやったから、泣き止んでおくれ?」
少し服をボロボロにさせただけで座り込んでいる村人くんの姿に、溢れ出ていた涙をそのままに目をパチクリと瞬く。
「あ〜、神官の嬢ちゃん無事か?立てるか?」
歩み寄る足音に、油の切れた機械の様に首を動かした。
振り向いた私の表情に銀色鎧の騎士は申し訳なさそうに頭を掻きながら、その疑問にこたえようと言葉を紡ぐ。
「えっとだな。そこの少年は力こそ全くと言っていいほどないんだが…身体がちょっとばかり、異常に硬いやつなんだ。その、爆撃を受けようとも、国王の可愛がりも耐えれる程度には、な。」
言われてそういえばと、全力で村人くんを構い倒している強国王の方へと目を向ける。
ようやく泣き止んだ村人くんの頭を撫でる手は残像が残るほどに高速で動き回り、抱きしめる腕はギシギシと尋常ではない音がなっていた。
それを笑顔で受け入れる村人くん。
強者の国の弱者は、ただの弱者ではなかったと言うことなのか。
なんとも言えず、私は苦虫を潰した顔をしてしまった。
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