第6報 強者国で暴れた襲撃者について
強国王がおもむろに腕を振るって声を貼る。
「よくぞ此処までたどり着いたな、勇者よ!だが、お前の命運も今日尽きる!我の元にもたどり着けず朽ちて行く運命に涙するが良いわ!!」
幾分か芝居掛かったその姿に目を見開いた。
「っ、マオオォォウゥ!!!!!」
勇者の体が光を纏う。身体強化の技能が発動したのだろうか、室内にも関わらず勇者を中心に風が流れた。
「王の元へ向かうのは我々を倒してからにしてもらおうか!」
脚に力を込め前へと飛び出す前に、勇者と強国王の間に騎士達が割り込む。
直後、響く音。
一瞬の間に勇者が動き、騎士が剣戟を防ぐ。
間をおかず魔法の嵐。
剣尖が轟、魔法の攻防が始まった。
眼前で始まってしまった攻防激しい戦闘に、体が強張る。
避難する間を失ってしまった。
「…神官姉ちゃん」
村人くんが力ない手で神官服の袖を掴む。
「だいじょうぶ、大丈夫だからね。」
彼に言ったのか自身に言い聞かせるために言ったのか、震える声で口に出して村人くんをかばう様に立ってジリジリと後退する。
先頭の余波で魔法の流れ弾がこちらまで飛んで来るが、鈍色鎧の騎士が木箱片手に受け流してくれている。彼は魔法防壁を張るのは得意ではないのか人一人覆える程度の大楯サイズでしか展開できていない。いつ私達に被弾してもおかしくない状況だ。
もう一人側にいた銀色鎧の騎士は、戦闘に興味がないのか勇者の開けた壁の大穴の方へ行ってしまった。そっちより私達の方を気にしてほしい。
長い時間をかけて後退を続け、やっと小さな扉まで手が届く…というところで勇者と対峙していた騎士達が全員地に伏した。
「ふふふ…やるな、やるではないか勇者よ!想定以上だ!!それでこそ我の宿敵として相応しい!!!」
玉座からゆっくりと立ち上がり、強国王は大きく腕を広げる。その顔には喜色満面な笑みが貼り付けられていた。
「…っは…ぐっ……あ、とは、お前だけだ魔王!!」
息も絶え絶えに勇者は剣を両手で持ち、強国王へと切っ先を向ける。戦意の色は未だ消えていない。
この光景を切り取れば英雄譚もかくや、と言ったところだろう。
だがそれを見ている私の頬は固く引きつる。
「(この人達、あそんでる…)」
勇者が打ち倒したはずの騎士達は鎧に傷一つついておらず、今まさに最終決戦という雰囲気を放つ強国王の邪魔にならぬ様にと密かに移動を始めていた。
今思えば戦闘が始まる前に発した芝居掛かった強国王の言葉、妙に頭の隅に引っかかっていたのだ。聞き覚えがあるのも当然、今も語る強国王のその言葉の数々は宗教国が出版した勇者物語に出てきた台詞なのだから。
そしてこの一連の流れすらも。
「しかし、貴様はすでに満身創痍!もはや我の攻撃に耐えられまい!!」
強国王の周囲に大小様々な炎の弾が出現し、停滞する。勇者の次の手を待つ様に、あごを少し上げて口角を持ち上げた。
「この一撃でお前を倒す!!!」
剣を上段に構え、勇者は体を覆う光を剣へと移動させた。集結した光は剣の形を大剣の様に変化させる。
「屈しろ勇者っ!!!」
「滅びろ魔王っ!!!」
二人は同時に動き出した。
振り下ろされた剣は光を放ち、一直線に光の剣筋を解き放つ。
強国王の言葉に連動して、大小様々な炎の弾が勇者の周囲に飛び放たれた。
互いの攻撃は途中でぶつかり合うことなく狙った場所へと着弾。辺りへと土煙が立ち上がった。
「…っう!」
反射的に覆う様に顔の前に上げていた腕を退けて周囲を確認する前に、一陣の風が土煙を吹き飛ばした。
そこに残るのは半ば予想通りの状況。
「ふは、ふはははは!もはや何もできない様だな!」
「…ぐぅ………くそっ!」
すでに構えることすらできないのかボロボロになった床の中心で剣を突き立て体を支える勇者と、無傷でその場に立つ強国王の姿があった。
「我に逆らったもの達の元へと行くがよい、勇者よ!!」
強国王は宙に黒の大剣を作り出すと、大袈裟な身振りで勇者へと解き放った。
絶望の表情を浮かび上がらせて勇者は瞳を大きく開く。
体を動かすそぶりはない。
黒剣がその体へと突き刺さる、その瞬間。
「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
勇者の身体が光を放った。
「ほう?まだ抗うか、勇者!」
黒剣は砕かれた様に黒い霧へと変わり、空気に溶けて消える。
追撃を放つ用意もせず、強国王は勇者の動きを観察する。
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
咆哮が途切れることなく状況は変わった。
勇者を中心に衝撃波が迸り、周囲の気候は大いに荒れる。
吹雪き、稲妻轟き、炎が舞う。鎌鼬が発生して、床が槍の様に下から突き出る。
「む。これは…」
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