フィギュア
漆目人鳥
フィギュア
Hさんはお気に入りのフィギュアがあった。
と言っても、美少女、美男子フィギュアといった数千円もするようなものではなく、
当時流行したカルチャー系とでも言うようなフィギュアだ。
コップのふちにぶら下がったりしてるのが有名な、あの系列である。
その中で、『すみっこが好きな妖精』といった設定のものがあった。
妖精といっても、
その姿は、非常口を示すライトに描かれたピクトグラムの人間のように簡略化された体で、
顔の部分には申し訳程度の目鼻が点と線で描かれているといったもので、
そのフィギュア達が、体育座りをしたり、寝転がったりと思い思いのポーズをとっている。
全身が蓄光材で出来ているため、明かりの下に置いてから暗い場所に移すと、しばらくの間、
全身がぼんやりと残光で光るというものだ。
で、この『すみっこが好き』な妖精をHさんは5~6個所有しており、部屋の隅や本棚、戸棚の上等に、
隠すようにディスプレイしている。
すると、部屋の中が明るいうちは目立たない妖精たちが、寝ようとしたりして部屋が暗くなったとたん、
ぼんやりとあちこちに浮かび上がる。
その趣向がなんとも楽しかったのだそうだ。
或るとき。
Hさんは、仕事が遅くなって24時になろうかという時間に帰宅した。
鍵を開けて部屋に入り、明かりをつけようとした刹那、彼は固まってしまった。
部屋の中のあちこちに置いた妖精たちが、暗闇の中でぼんやりと光っていたのである。
つまり、
「漆目さん、これって、ついさっきまで部屋の中に誰かいたってことですよね?」
Hさんはワンルームマンションに独り住まいである。
フィギュア 漆目人鳥 @naname
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