第2話 戦場
見渡す限りどこまでも広がる焼け野原に、セルフィスはいた。
今回の交戦場所の中心、都市リンネルだ。
「流石にひどいな….これは…」
ボサボサの髪に無精ひげをはやす男、
セルフィスは、思わず悪態をこぼした。
セルフィスの目の前には、背中から血を流して倒れている兵士がいた
何処からともなく銃声が響く、それは、
セルフィスの軍が圧倒的劣勢に追い込まれている証だった。
なぜなら
「うちの国に銃なんてものはほとんど存在しない、持っている奴らはみんなこの戦闘を指揮する側だ。今ごろ安全地帯でコーヒーでも飲んでいるだろう」
いつの間にか、セルフィスの後ろに男が立っていた。
「ダエル。突然後ろから話しかけてくるのはやめてくれ。心臓に悪い。」
セルフィスは苦笑して振り返る。
ダエルと呼んだ男は、軍人とは思えないほどさっぱりした顔つきで、
セルフィスの昔からの友人であり、今の戦友であった。
しかし、今のダエルの姿を見た瞬間、セルフィスの表情が一気に険しくなった。
「お前….」
左に目線を移すと、彼の右腕が消え去っていることに気が付いたからだ。
「何があった。」
すっかり軍人の顔になったセルフィスが問う。
対してダエルは苦笑し、左手をひらひらさせて答えた。
「とりあえず、いったん安全を確保してからにしよう。
俺もこの有り様だし―――」
ダエルは、そこで一旦区切って。
「散って行った仲間を、葬る時間が欲しいからな。」
と言って、ついさっきまでセルフィスが見ていた死体に視線を移した。
この亡骸の名前は、ナーラという、軍隊内で1,2を争うレベルで若い少年だった。
戦場では誰よりも積極的に行動し、
将来はどこか部隊の分隊長になれるほどの結果を残していた。
そして何より、ダエルと特に仲のいい少年だった。
「モタモタしている暇はない、行くぞ、ダーラは…悔しいがお前が担いでくれ。」
ダエルのその一声で、
戦場のど真ん中でのんきに立っていた二人はようやく移動を始める。
転んでしまうほどの勢いで思い切り地を蹴り、
瞬間、彼らは加速し、戦場の端まで消えて行った。
これが彼らの軍の力。『慣性強化』であった。
よく見ると、二人の背中には円盤の様なものが付いていた。
この円盤の力によって、
彼らは一度勢いをつけて飛び出したらそのまま3倍のスピードに加速する。
後は自分が地に足をつけるまで、止まることはない。
一見すると便利で素晴らしい力のように見える。
しかし、この力には、二つ、大きすぎる弱点があった。
戦場の端、逃げ込んだ敵兵士などがいなければ、恐らく安全だろうという所まで来たとき、二人はほとんど同じタイミングで地に足を付けた。
ズザザッー!という音と共に、ものすごい勢いで砂が舞った。
たまらず手で目を覆うが、セルフィスが担いでいる死体にはもろに砂が掛かってしまう。二人は心の中で「すまん」とつぶやいた。
これが一つ目の弱点、停止のリスクである。
そして二つめ、着地の際に起こる衝撃に、体が耐えられるかどうか。
流石軍人と言ったところか、二人は転ぶこともなく着地に成功した。
だが、その表情は苦しい。
「久しぶりに30秒以上も加速状態をつづけたな。」とセルフィス。
「ほんと、逃げにしか使えない力だこと。」とダエル。
「砂嵐が辛いが、もう始めよう。早く前線に復帰しなければ。」
「立ってただけなのによく言うよ。」
そんな軽口をたたいていても、二人の表情は真剣そのものだった。
つい最近まで自分たちと共に活動していた仲間を埋葬するのだ、
笑えるわけがなかった。
ぽろり
ダエルの頬に雫が垂れた。
ぽろり
ぽろり
一つ、また一つ、その雫は垂れていく。取り繕いようもなく、ダエルは泣いていた。
「す、すまん。ちょっと感情を抑えきれなくて。」
「いいよ、悪いのはお前じゃない。この戦争だ。」
3章に続く
コールスタート・ドロップエンド waku @ryouya117
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