コールスタート・ドロップエンド

waku

第1話 プロローグ


ナイクルートはごく普通の少年であった。


15歳という若さゆえに、

学校が休みだからと言って調子に乗り、思いっきり夜更かしした彼は、

翌朝、もう12時にさしかかる時間に布団から目を覚ました。


「やばい!?もうこんな時間だ!?」


急いで階段を下りてリビングに向かうと、

テーブルに簡素な食事が置いてあった。

さらに隣には

『愛する息子ナイクルートへ

私は戦場へ行って参る。

必ず帰る。

      父 セルフィス』

と言う内容の手紙も置いてあった。


「愛する息子。なんて書いちゃって。照れるなあ、父さん。」


その内容を軽く受け流し、ナイクラートは食事に手を付けた。


父の食事は昔からあまり美味いわけではなかったが、

急いで作ったのか、今日の食事は一段とまずかった。


あるいは、自分が手紙の内容に軽くショックを受けているからかもしれない。


「おとといに続き、また戦場に行くのか。

いよいよこの国が深刻な状況になってきたってことなのかな。」


そう言って、溜息を一つこぼす。


ナイクルートの母は彼が2歳の頃に死亡しており、

以降父のセルフィスが 1人で育てていた。


しかし新暦702年、ナイクルートが12の時に戦争が始まり、

セルフィスは戦場へ向かうことになった。


この国は軍人が少ない、故に、何かスポーツ大会などで賞を貰ったりした者を

軍人にして戦場に向かわせていた。

悲しいかな、セルフィスは戦争が始まる一か月前に、

「ラリトール」という、この世界のキックボクシングの様な競技の東部大会で

優勝していたのであった。


以降、セルフィスは度々戦場に向かっている。


しかし、ナイクルートに不安や心配の表情はなかった。

父さんはどんなに激しい戦いでも無事に帰ってきた。今日もきっと大丈夫だ。


「さーて、体を動かしに行くか。」


そういって、ナイクルートは家を飛び出した。



さて


突然だが、物語で『きっと大丈夫』と言う言葉が出てきた時、

読者の皆様方はどう思われるだろうか。


恐らく、大半の方はこれをいわゆる『死亡フラグ』だと思われるだろう。

しかし、期待していた読者様には非常に申し訳ないが。

セルフィスは今日死亡することはない。


なぜなら、この物語は、どこにでもいるような軍人の

ちっぽけな日常を描いたお話なのだから。






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