「アンリミテッド・シコ・ワークス」

 国技館。グランド大相撲、冬場所。

 防弾ガラスで囲われた土俵フィールドの上に、二基の高濃度酸素カプセルが下ろされる。

『日本相撲協会の承認に基づき、力士の全拘束を解除します』

 機械音声と共に、カプセルの扉が白煙を漏らしながら、ゆっくりと開かれる。

 土俵上には超高圧縮カーボンが敷き詰められ、その上には均等粒径のトレーサーが散布されている。四隅に設置されたスプリンクラーがその表面を力士が最適なコンディションを発揮できる濡れ状態に保つ。

 そのハイテクによって成立する神聖なる競技場の上に、2つの足が踏み入れた。

 一人は、オーソドックスな巨体の力士。だが、もう一人は……力士と呼ぶには、余りに細身だ。そして、爪を凶器の如く研ぎ伸ばし、マワシには形状記憶合金製の鞭(ウィップ)を仕込んでいる。

 典型的な、暗殺者アサッシンタイプの力士である。

 相撲は神代の力比べにまでその歴史を遡るとされる伝統的神事ではあるが、近代以降、その運営体制の変革のみならず、相撲そのものも時代による変革を余儀なくされた。

 そして。室町より伝わる相撲の決まり手、四十八手に対し、番外一〇八手を追加。計一五一手(五手は後に禁じ手となった)を決まり手とし、大相撲を総合的な格闘技として拡張したものこそが、現在のグランド大相撲である。

「手をついて」

 力士が告げる。両者が蹲踞し、腕がゆっくりと下がる。拳と、地面の距離が縮まっていく。拳が地面に付いた瞬間、TORIKUMIが始まる。

 2cm

 1cm

 ゼロ。

 瞬間。暗殺者アサッシンが跳んだ。

 空中から巨体の力士の背後へと回り込む。真後ろから延びる鞭が、力士の首を狙う。だが、

「ドスコイ!」

 力士の張り手が鞭を跳ねのける。暗殺者が土俵際に降り立ち、跳躍して距離を詰める。

 だが、直後。力士の巨体が跳んだ。丸太の如き腕が暗殺者の首を抱き込み、地面へ向けて絞め落とす。

 力士が軍配を掲げる。同時に、

『決まり手:スリーパーホールド』

 の文字が、土俵上の巨大な電光掲示板に踊る。「発気揚々はっけよーい」の言葉を発する間もなく。勝敗は決した。

 暗殺者は起き上がらない。口から泡を吹いたまま、オスモウ担架によって搬送されていく。

 これが、今世の相撲だ。今この大相撲時代に於いては、あらゆる者が土俵に集う。

 空手道場。拳法流派。プロレス団体。暗殺教団。あらゆる格闘技が相撲部屋として改組され、グランド大相撲へと取り込まれた。相撲は力士の身体そのものめいて拡大し、無尽蔵に肥大していく。


 都市博の予定地、臨海副都心に建造された『台場国技館』。それこそが新たなる相撲の聖地。その土俵は、数多の強者の血によって、しとどに濡れている。

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オスモウ・アヴェンジャー 碌星らせん @dddrill

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