第52話 領主セレン・ノルン
数多くの食べ物を前にしながらタイチ達は食卓を囲っていた。
その中で今までと違うことはミレナが居ないこと。
そして、この屋敷の主が座るべき主席。
そこに小さな少女が座っている事だった。
金髪の少女はその体格に似合わず先程から膨大な量のご飯を食べていた。
凄まじい速さなのにどこか気品があるのはやはり、種族特有の高貴さというものが有るのだろうか。
…そう、彼女はエルフだったのだ。
名前をセレン・ノルン。ここら辺の地方の長であり、この屋敷の主でもあった。
タイチ達も、前に置かれている食事を取る。
最も、当然食欲がある訳もないので必要最低限といった感じではあったが…
「それで、タイチ君じゃったかのぉ?」
そこへ初めて、セレンの方から話しかけられる。
「…あぁ、商人をやってるタイチという。こっちは仲間のリル、ルルだ。まずは、助けてくれた事に感謝する。」
タイチは、深々と頭を下げる。
このセレンという女がいなければまず間違いなく死んでいただろうから。
「よいよい。それにしても驚いたがの。ウチの領土にそなたたちがやって来て、そこの嬢ちゃんに助けてと言われた時は。」
リルの事だ。リルがあれから逃げた末にセレンと出会ったのだ。
セレンは話を進める。
「しかしまぁ、同族のよしみもある。特に向こう側の国は亜人種に厳しいでな。なんとかそなたたちをこの家へと運び込んで手当したという訳じゃ。悪かったの、断りなくここまで連れて来て。」
セレンは軽くこちらに頭を下げる。
「いや、本当に助かった。ありがとう。おかげで俺らは生きている。」
…犠牲者を作り出した張本人の癖にのうのうと。
タイチは、嫌な感情が頭から離れなかった。
無理もない。この世界に来て唯一といえる存在を失ったのだ。本当なら泣き叫びたくてしょうがなかった。
だがそれは許されない。
リル、ルルがいる。彼女達はタイチがいなければ居場所を失ってしまうのだ。
奴隷とは所有物という事だ。タイチは仲良くやっている為、ほとんど負の部分を見ていないがそれでも片鱗を感じることなんて数多くあった。
それこそ、奴隷都市が最たる例であるがここでも例外ではないのだ。
もし、ここでタイチが全てを投げ捨てて飛び出したら彼女達が待つ運命は悲惨なものになる。
それこそ、死んだ方かマシな地獄にたたき落とす行為になってしまうだろう。
だからタイチは投げ出さなかった。
タイチには少なくとも2つやって置かなければならないことがあった。
「2つ頼みがある。ひとつは落ち着くまでここに居させて欲しい。およそ5日間ほど。そして2つ目は国境付近の砂漠に戻りたい。その間、こいつらを頼めるか?」
タイチはチラリとリル、ルルが座ってる方を見る。
リルもルルも下を向いたままだった。
というか二人とも寝てしまっていた。
タイチは起こそうとしたがセレンに止められた。
セレンはゆっくりと頷き、
「一つめは了解した。5日間と言わず好きに滞在するといい、だがふたつめはやめておくんじゃ。」
セレンは、真剣な目付きでこちらを凝視する。
青い瞳にどこまでも意識が吸い取られてしまいそうになる。
「大体の経緯は聞いておる。その子らが、必死にお前さんを連れてきたのも知っておるしな。…本当に珍しいの、奴隷と主人という関係なのに互いを思いやるというのは。それもお主の人徳というやつかの。」
セレンは優しい目でリル、ルル見る
その後こちらを見つめ直す。
「じゃからこそ行かせるわけにはいかんのじゃ。ミレナという竜人の娘が死んでるのはこちらで確認しておる。悲しいのは分かるが、あの子らの側にいてやれ。死者は戻らんのじゃ。今あそこに戻ったところで意味もない。」
「…!!?」
ここで、リルがミレナは死んだと断定した理由を知る。
そして、タイチは見透かされた気分になった。
全てを忘れて現実逃避したかった。
まだ生きているという可能性にかけたかった。
「……そうだな」
長い葛藤の末にタイチはセレンの言葉に頷いた。
「俺が守らなきゃいけないもんな」
タイチはそっと、リルとルルを起こして部屋へと戻っていった。
☆☆☆☆☆
「…行ったかの。これであの子らが暴走する可能性は減らせたじゃろ。…最大の問題はこっちじゃがの。」
セレナは広い屋敷の中、とある部屋で立ち止まるとノックをした。
「失礼するぞ。…ご気分はどうですかの竜神様」
セレナは盆に入れて持ってきた食事をテーブルに置いて、ベットの隅を見た。
「……私はトカゲ。…所詮私は羽が生えただけの醜い下等生物なんです。……ご主人様だって私がいない方がきっと嬉しいんだ…」
そこにはベットの隅、指で地面にクルクル円を描くいじけきったミレナがいたのだった。
奴隷チート!!〜可愛くて最強な俺の奴隷と平穏な暮らしを送りたい @background
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