第51話 終幕の代償

ある所に1匹の竜がいました。

その竜はひとつの種を植えました。

種からは世界が出てきました。

お腹を空かせていた竜は世界を食べてしまおうとします。

しかし、それを知った女神様は激怒し竜が世界に触れる事を禁じました。

それから長い間、竜はずっと世界を眺め続けました。

やがて竜を襲ったのは、空腹感よりも孤独感でした。


何も無いところで独りぼっち。

世界の中では、楽しそうに生きている生き物がいました。家族がいてとても幸せそうでした。

それを知った時初めて竜は泣きました。

初めての感情でした。そして、世界がとても尊く見えました。


女神様は、竜に言いました。

「あなたが知ったそれは愛というものです。あなたが望むなら彼らと共に生きる事を許しましょう。」

竜は世界の中で生きる事にしました。

たったひとつ、女神様と約束をして。


☆☆☆


タイチは目が覚めると、隣で赤い髪をした少女が寝てたいる事に気が付いた。

驚いて、飛び上がろうとするが体が動かない。

大きなベットの上でただ煌びやかなシャンデリアを眺めていた。

そしてタイチが起きた事に気がついたのか、少女は、

「っ!タイチ!!目が覚めたんだ!よかった。よかったよ…」

そう言って、泣きそうになりながらタイチを抱きしめた。

「なんだよリル…どうしたんだよ。」

タイチは少しずつ思い出してきた。


この赤髪の美少女の名前はリル。

一緒に旅をしている仲間であり、そして…奴隷でもある。所有者はタイチ。姉妹で殺し合いをさせられそうだった所を我慢が出来ず、購入という非人道的な営みに手を染めてしまったのだった。


ふと、足元の方に視線を向けると同じく赤髪の少女が寝ていた。年齢はリルより小さく、明らかな子供だ。

名前をルルという。彼女も一緒に旅をしている仲間であり、…奴隷である。


…今の光景だけを踏まえると、最悪にゲスい奴の誕生である。

姉妹を奴隷で購入し、ベットに侍らせる。

しかも片方は年端もいかない少女。


だが、あえていいたい。

異世界だからしょうがない…

嘘ですごめんなさい。お巡りさんは勘弁してください!

ミレナも同意してくれたんです!!

その時一緒にいた奴隷の少女に許可貰ったんです!!


ぎゃあああ!!最低のどクズじゃねぇか!?


タイチが一人で悶絶している間に、リルの震えが収まってきたのが分かった。

はっきり言って、今の状況は異常だ。

豪華な部屋に、フカフカのベット。

まずどこかの豪邸の中だろうと見て間違いない。

そして、リルの態度。

常にテンションマックスでいるようなリルがあまりにもしおらしい。

残念ながらタイチにはここに来るまでの記憶がほとんど無い。


だから今は聞かなければならない事が沢山ある。

「…リル。本当はここはどこだとか、なんでこんな豪華な待遇を受けているのかとかを聞きたいが今はどうでもいい。…それよりもミレナはどこだ?どこにいるんだ?」


僅かに残る記憶の断片があった。

同級生だった高坂に襲撃を受けた事。

圧倒的な実力差を見せつけられた事。

そして、急にミレナに抱きしめられた事。


だが、それからを一切覚えていないのだ。

一体どうやって、この場所まで生きてやってこれたのかが覚えていない。


すると、リルは泣きながら答えた。

「…ミレひっぐ、ミレナちゃん、うっうっ、

ミレナちゃん死んじゃった。…ひっぐ。

ここはうっうっ、『ベリアル共和国』、ひっぐ、『ノルム地方』うっうっ、『地方領主のお家』」


リルは泣いて、つっかえながら確かにそう言ったのだった。

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