第50話 捧げた命はどこに還る
ミレナは高坂を見ながら、次に取るべき行動を考える。
黒武装は、体を魔力で覆うことで強化する肉体強化魔法の様なものだ。
…本来は人間ではなく竜が激しい戦闘で用いる魔法だが。
それを、高坂は容易く受け止めた。
ミレナの筋力は現在、竜のそれに近い。人間の姿である以上、多少のブレーキが働いているとはいえ、人間ごときならば腕ごと吹き飛ばせるはずなのだ。
「驚いたよ。その力、まさに邪竜じゃないか。君は人間のフリをしているに過ぎない魔物なのか!太一君も中々やるじゃないか。てっきりその可愛らしい顔につられてるだけかと思ったけど、こんなすごい魔物を使役しているなんてな。」
高坂は興味深い物を見るかのようにミレナを見る。
その言葉を聞いたミレナは強烈な怒りを覚えた。
違う。タイチはそんな事を考えて助けてくれた訳じゃない
タイチは道具としてではなく、1人の人間として私を見てくれている。
一緒に旅をした思い出はとても甘露で美しいものだった。
こいつは、土足でそれを踏み荒らしている。
「……」
ミレナは、何も言わずに高坂へと迫った。
1秒でも早くその耳障りな声を止める為だった。
こんなあからさまな挑発にのるなんてどうかしている。
それでも、絶対に許すことが出来ない逆鱗に触られ我慢が出来なかった。
ミレナは、手に魔力を固めて全力で高坂へと拳を叩き込む。
そしてすぐさまに魔力を解放し、魔力による爆発を起こした。
爆風が周囲で発生し、砂煙が視界を覆い尽くす。
砂煙の中、ミレナの前にキラリと微かな光が見えた。
高坂による反撃だと考え、ミレナは腕に黒武装を集中させる。
そして腕を組み、攻撃を耐えようとした瞬間。
「…!!」
咄嗟の判断だった。
攻撃を受け止め、即座に反撃をしようとしていたミレナは自身の翼で即座に後方へと飛び移る。
そして、後ろに体が動いた瞬間に僅かに光を帯びている剣がミレナに当たった。
凄まじい力がミレナの体にかかった。
そのまま後ろへと吹き飛ばされたミレナは、翼を広げて何とか状態をたてなおした。
…危なかった。あのまま剣を受け止めていたら今ぐらいでは済まなかっただろう。
後ろへと移動し、威力を弱めてもこれなのだから。
そして、高坂の方を見ると手には先程の光を帯びた剣が握られていた。
それは、今までみたいに大量に出現させていた物とは格が違う事が一目見て理解出来た。
「びっくりしたなぁ。いきなり飛びかかって来たんだもん。うっかり反撃しちゃたよ。…そんな怖い顔しないでよ。お詫びにタネ明かししてあげるからさ。」
そこまで言うと、高坂は手に持っていた剣を消した。
異空間に飛ばしているのだろう。
「僕の能力は剣を自在に操る力。でも単に動かしたりするだけじゃ無い。本質は剣の能力を引き出す事にあるんだ。例えば今使っていたのは『聖剣ガラハーク』。能力は使用者の身体能力を上昇させるというもの。普通ならいくら適性があっても2、3倍が限界だけど僕なら数100倍まで高める事が出来る。」
高坂は、手にもう一度剣を持った。
それはさっきの剣とは違う物だった。
いや、違う物という言葉では語弊がある。
正しく言うなら違うレベルの物だ。
聖剣が微かに光を纏っているのなら、今高坂が持っている物は光そのものだ。
「勇者が悪い竜を殺すんだ。まるでおとぎ話みたいじゃないか。だから華を添えてあげよう。今の僕の最大だ。『神剣ブレイカー』」
目の前に見える眩い光を放つ剣がミレナの視界に映る。
きっとこれは、逃げることも受け止める事も出来ないものだろう。
…これできっと最後。
最期?
また?
また、見てるだけの存在になるの?
いやだ。もうあんな寂しい場所に一人はいやだ。
折角、世界を作ったのに
ミレナの脳内にドス黒い感情が流れ込んできた。
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