第49話私の命を捧げましょう
タイチの意識を失い、ミレナへともたれ掛かる。
「ちょっと!!ミレナちゃん!何やってるのよ!!」
リルの叫び声を無視して、ミレナはタイチを抱きしめる。
きっとこれが最期の機会なのだと、認識している為だった。
その数瞬の後、側までやってきたリルへとタイチをそっと引き渡す。
「リルさん。ご主人様をお願いします。今すぐご主人様を連れて安全な場所まで逃げて下さい。」
「そんなっ!?何言ってるのミレナちゃん!!あんな奴と二人きりになんてさせられないよ!あたしも戦う!」
リルは、タイチを片手で支えつつももう片方の手で目の前の男に魔法を放とうとする。
「リルさん。もう一度だけ言います。ご主人様を安全な場所に連れて行ってください。それだけに命をかけて下さい。……ご主人様に何かあったら殺しますよ?」
そう言って、リルを見る目は普段全く見せない様な冷たい目だった。
ミレナは本来、誰に対しても優しく接している。
ましてや、タイチの率いれた奴隷であるリル、ルルだ。似たような境遇なだけに親近感さえ沸いていた。
旅の仲間として協力していたといえる。
ただ、本質が違うだけだ。心構えと言ってもいい。
タイチに全幅の信頼を置いているリル。
仲間という関係で考えるなら、これは最も素晴らしい関係性だろう。
それに対して、ミレナは違う。
タイチが全てなのだ。
タイチの為なら自分がどうなって構わないし、ましてや、他人など使い捨ての駒にする事に何の躊躇いも無い。
その思考の先に導き出した結論がこれなのだ。
ミレナは今、素直に聞く駒以外の事を一切リルに求めていなかった。
「え、う、うん。分かったよ。…じゃあごめんねミレナちゃん!!」
ミレナの豹変に驚きを隠せないリルは、しかし今は言うことに従おうとタイチを抱えてすぐさまその場から立ち去った。
☆☆☆
タイチとリルが立ち去ったのを確認したミレナは、改めて高坂へと向きあった。
「…今の間に攻撃してこなかったのはどうしてでしょうか?」
「良く言うよ。殺気を隠さないで威嚇してたくせに。それに1番の難敵を殺せばすぐに太一は殺しにいける。邪魔がいなくなってからの方が返って都合が良い。」
さきの間、ミレナは高坂に全力の警戒をしていた。それを察知出来るかどうかという時点でリルと高坂との戦力差が如何程か推して知るべしなのだ。
「そうですか…良かったです。これを見られるのは抵抗がありますから。」
ミレナは自身の姿を変化させつつ、そう言った。
『竜鬼』それは自分がバケモノである事を痛感させられる代物だった。
その為、ミレナはこの異形の姿を人に見られたくないのだ。
「……その姿は、予想してなかったな。君は魔物だったんだ?」
高坂は、わざとおどけた様な口調を取る。
そこからは、明らかに自分の方が上だという精神的な余裕が見られた。
「あなたには関係のない事です。『黒武装』」
ミレナは、全身を真っ黒で硬い物質で覆った。
ミレナが使う事が出来る能力の中で1番強固な硬さを誇る能力だった。
そしてミレナは、砂漠の砂を足で蹴り飛ばすように地面を駆ける。
もちろん、身体能力は竜人としての限界を遥かに超えている。スキルがそれを可能にしていた。
瞬き1回分の時間で、ミレナは高坂へと迫っていた。そして、黒く覆った竜の爪を高坂へと振り下ろす。
一瞬の出来事だった。そしてそれを高坂が、剣で受け止めた事をミレナは、理解した。
竜としての身体能力。その全てを引き出す事は出来ていないが、それでもそれは人間ごときが視認する事も、ましてや受け止めることなど出来るわけが無い。
だからこそ、ミレナは高坂が如何に強いかが分かっていた。最初からこれで倒せるなどとは思えなかったからだ。
ミレナがタイチの意識を奪うまで魔力搾取をしたのには3つの理由があった。
1つはこの戦いにおいて、最早タイチ、リルは致命的なレベルで足でまといだという事。
その為、絶対に近くにいては困るのだ。庇いながら戦う事は出来なかった。
2つめは本能的な理解によるものだが…、タイチの魔力を奪い切る事により、スキル『奴隷王』の恩恵を限界まで受ける事が出来るという事。
後々確実に反動はあるだろうが、それにより通常時の数倍力を発揮出来ていた。
そして…3つめは、それでも時間稼ぎにしかならないだろうという事。
だからこそ、タイチを安全な場所まで逃がす為の足止めとして、ミレナ自身が相手をするしかないのだ。
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