夢人形

天使(あまつか)

第1話 プロローグ

真っ暗は怖いよ…ひとりぼっちは嫌だよ…ワタシハダレ…?





















 両親の仕事の都合で昨日この町へ引っ越してきた橘 亜寿沙(たちばな あずさ)は荷解きに追われていた。時刻は22時。転入初日から遅刻なんてことは許されないだろう。


 「もうそろそろ寝ないと」


そんな事を呟きながら最後の段ボールを開けると見覚えのない一冊のノートが…


表紙には【Doll Collection】の文字。表紙を捲るとそこには、白いニーソにふんわりボリュームのある黒いワンピース。フリルが沢山あしらわれた純白のエプロン。胸元には大きな赤いリボンがあり、更には猫のような耳と尻尾まである女の子の写真が一枚の貼られており【属性】と【名前】が書かれてあったがどちらとも空白になっていた。



 ―猫耳メイドだ!!!



 瞬時にそう判断した。オタク文化に詳しくない亜寿沙でもテレビや雑誌などで何回か目にしたことがあったためだ。


 「でも何でこんな所にこんなノートが?…やめ!やめ!もう考えるのやめよう!明日から新しい環境での生活が始まるんだから頑張らなくちゃ。仲の良い友達もはやくできるといいなあ」


 転入初日となればしばらくクラスの注目の的になることはほぼ決定だろう。しっかり者に見える亜寿沙だが、少々気が弱くあれこれと色々考え込んでしまう上、人見知りな性格のため明日のことでいっぱいいっぱいだった。見覚えのないノートの事なんて考えている余裕なんてないのだ。


 「明日の事考えたら胃が痛くなってきた。今日はもう眠ろう」











窓の外は満開の桜が辺り一面をピンク色に染めていた。花びらが一枚散った音がする。ひらり。

亜寿沙は期待と不安が入り混じった淡い夢を見るのだった。

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夢人形 天使(あまつか) @py0n_chiya

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