祖母の記憶という誰もが胸に抱くノスタルジーが香り高いポエジーと共に大事に埋め込まれている作品。祖母とは夢の中ですら最後まで会えない。鼻緒の足指の痛みは酷くなり、恋しさやもどかしさも強くなる。あったはずの優しさに触れる術はない。それでもその人がいた事は確かに刻まれていた。今はいない人を想うということ。その人から貰った想いを沢山の思い出と共に忘れないということ。大事なことを思い出させてくれる珠玉の短編。
懐かしくて温かい。でもどこか切なくて、苦しみや痛みもある。そんな遠い夏の記憶を、ぐいぐいと引き込む文章で綴っていきます。読みながら自分も一緒に夢で記憶を辿っていました。
夢から目を覚ました「私」と祖母をつなげるお萩。 お萩の甘さと柔らかさが、「私」にとっての「穏やかなお祖母ちゃん」なのだろうなと感じました。 読後…… 日頃は忘れている祖母への想いや、祖母自身を思い出させたのは曼珠沙華か? 「摘んじゃいけないよ」と曼珠沙華自身の言葉を祖母(多分)の口から言わせたかのように印象に残りました。
とても静かで、仄暗い。作品冒頭にあるこの一文が、この作品の魅力を全て言い表している――と、最初に思ったことがそれでした。手を伸ばすのに届かない、確かにあるはずなのにどこにもない。そんな誰もが体験したことのあるもどかしさを、きっとこの作品を通じて読者は思い出すことになるのではないでしょうか。