本当のことしか言えない人間
卯月ふたみ
本当のことしか言えない人間
僕は、世界でも珍しい人間だ。
この、60億を超える人間がいるこの地上で、ほんのわずかだけ存在している……
『本当のことしか言えない人間』
その一人なのだ。
本当のことをしっかり言うことはいいこと。
はっきりモノを言える人は立派。
そんな意見を聞く事もあるが、やっぱり本音しか言えないというのは大変だ。
苦労が絶えない。
英語でも『white lie』って言葉がある通り、必要な嘘って、やっぱりあるんだ。
世の中の潤滑油は嘘であると、この体質になって初めてちゃんと理解した。
さてさて、そんな特別な体質の僕であるが、一人の人間である。
人並みに感情をいだくことだってあるわけなんだが。
まあ、そう。うん。
つまり、恋をしたのだ。
恋をした相手は、幼馴染。
幼馴染と言っても、小さいころ彼女が引っ越してしまって、それから疎遠になっていた。
しかし最近、またこの街に帰ってきたのだ。
久しぶりの再会に、胸を躍らせてはいたのだけど、いざ、本人を目の前にした時……
僕は心の底から震えた。
記憶とは違った彼女は、とても女性的で好みど真ん中ストライク。
一瞬で恋に落ちていた。
そして、忘れちゃいけないのは……
僕が、嘘をつけない人間だという事。
隠し事もできない
久しぶりの再会だ。
「久しぶり」
なんて挨拶もなしに、第一声だった。
「あなたの事が好きです!」
気付いた時には、その子に告白をしてしまっていた。
いくら昔、仲良かったと言っても、お互いはしばらく離れていたんだ。
常識で考えてみよう。
困るだろ。
いや、わかってる。常識外れな行動だって、理性では認識してるのだ。ただ、国家も指定している病気なんだ。止めらんないんだよ、ほんと。
そんな感じでやっちまった感で悶々としている俺に、彼女は落ち着いた声で答えた。
「あのね、私、本当のことしか言えない人間だから
はっきりと言っておくけど……
私、あなたが嫌い」
「ああ!!ショックだ!!!」
嘘を吐けない性質だから、つい口から出た。
実は、僕の好きになった人が僕と同じ『本当のことしか言えない人間』だったことに驚きつつも、やはりつらさが勝った。
昔、よく一緒に遊んでいたのに。
けっこう、仲良かったと思っていたのに。
好きでも、普通でもなく……嫌いだったなんて。
でも、僕にはあきらめることなどできなかった。
しかもよく考えてみろ。
お互いが、おなじ体質の悩みを抱えている。
このつらさを分かち合える人なんて、そうそういない。
むしろ、これは運命なんじゃないか?
なんて風にも思えた。
「どうしたら好きになってくれますか?」
「嫌いです」
「あきらめられません」
「嫌いです!」
その日から、僕のアピールが始まった。
体質のせいか、もともと僕が持っていたもののせいか、自分でもドストレートで熱烈なアピールだったと思う。
とにかく、僕が本気であることを伝えた。
伝えて、伝えて、伝えまくった。
あれ? 俺気持ち悪くねえか? って、自問自答を始めるくらい伝えた。
むしろもっと嫌われんじゃね? ってくらい、表現してみた。
そして一月後。
僕は今、彼女の前に立つ。
リベンジだ。
ただ、思いの丈は全て伝えきった。
もし、これで叶わなかった彼女の事は諦める。
相手のこの先の幸せを願い、姿を消す。それが男というものだ。
僕は彼女に言う。
「あなたのことが好きです。大好きです。
どれほど好きなのか、多分伝わったと思います。
気持ちが変わっていても、変わっていなくても
もう一度返事をください。
お願いします」
しばらくのまが開き、静寂が流れた。
時間の経過が長くて短い。
自分の感覚が矛盾するくらい緊張していた。
自分の鼓動が辺りに響いてるんじゃないか。
そんな気がした。
その時、彼女に息を吸う音が聞こえた。
そして、返事が、彼女の口から紡がれる。
「あなたのアピール、とてもうれしかったです。
……あなたのこと、
……好きになりました。」
すべての苦労が報われた。
「お付き合い、よろしくお願いします」
「は、はい……! よろしく、お願いしますっ!」
この時の声は、今にも泣きそうだったと思う。
というか、泣いていたと思う。
感激のあまり。
てっきり、振られるものだと思っていたから。
胸が暖かさで、溢れんばかりになっていた。
俺は今、最高に幸せだ!!!!
それからすぐに、僕は知った。
……世の中には、「嘘しか吐けない病気」の人間がいるということを。
本当のことしか言えない人間 卯月ふたみ @uduki_hutami
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