第一話 兎の少年 05

「…そういやまだ名乗っていなかったか?」

「あっ、そういえば…」

「とりあえず、自己紹介するか」

 …自己紹介するの遅すぎでしょ!!

「俺は大上和樹おおうえかずき、狼に変身する」

「狼って… なんか、その… そのままですね」

「爪には自身があるぜ? 殴り合いとか」

「…ものすごく物騒ですね」

「…そして私は栗田莉子くりたりこです、動物はリス!」

「リス、可愛い動物なんですね」

「可愛いからってナメちゃいけませんよ、その気になれば強いんですから!」

「…あ、自分で可愛いって言っちゃうんですね」

「それで、君たち二人は?」


「僕は、卯花、卯花優希って言います」

「私は三田海貴です」

「ユウキくんに、ミキさん、ね。ありがとう」

「卯花くんに、三田さん。早速、君たちに何が起きたかを教えてあげよう」


 僕らの身に何が起きたのか。そもそもここはどこで、なぜ僕らはここにいるのか。

 …そういえば、今何時なんだろう。聞くことはいっぱいある。

「…と、そうだ。君たち二人は、誰かに切りつけられたりしたよね?」

「…はい、通り魔みたいな奴に」

「そして、そいつは大切な人を傷つけた訳だ」

「…はい。僕は友達を傷つけられたし、なにより三田さんが刺されたのを見て…」

「私は、卯花くんが気になって追いかけたら、卯花くんが刺されそうになったのを見て、それで… しかも、その後に卯花くんの唸り声も聞こえて…」

「…それ以上は思い出さなくていいさ。それじゃ、何が起きたかを説明しようか」


 大上と名乗る男は、雰囲気を変えて、真面目な顔になった。

「君たちが呪われてしまったのも、全ては『不幸』の連鎖なんだ」

「…『不幸』…? そんなんで割りきれるわけ…」

「まあ聞いてくれ。まず、君たちは昨日、致命傷を受けた、命に関わる、な。まずこれが一つ。次に、二人は互いに大切なものも傷つけられていた。ここまでで二つだ、だがこれだけならまだ君たちがバケモノになるはずはなかった」

「…それってつまり、他の条件を満たしていなかったら…」

「死んでたな、確実に。ある意味、呪いのお陰で行きながらてるっても間違っちゃない」


 そして、大上は一拍子入れて続ける。

「こっからが不幸だ。君たちが傷を負った昨日は、満月だったな。その月は、特殊な月なんだ」

「特殊な…月?」

「そう、『ブルームーン』って言ったか。その月明かりは特別で、大切なモノと自分自身を失いかけた人に呪いをかけるんだ」

「それが、『獣の呪い』…」

「ただ、それだけじゃ呪いにはかからない。呪いの一番特殊な所は、人を『自分のなりたい姿』に一番近いに姿を変えさせるんだ」

「…それって…」

「…卯花さんはウサギに、三田さんはイルカになっていました。つまり、お二人はその姿になることを望んだのです」


 それはつまり、自分はその姿になりたがっていた、ということだ。

 自分がウサギに? 信じられるか、いや…


(例えば、兎のように自由に駆け巡れるなら、あいつを捕まえてやるのに)


 願っていた。自分がウサギになって、あいつを捕まえることを。


「…この呪いは永久に君たちに降り注ぐ。君たちは、この姿を他の人間たちに見られれば、きっと迫害を受けるだろうな」

 そうなれば、僕はきっと、生きる場所をなくして…


「そんな、呪いを受けた人たちが身を隠すために、この隠れ家があるんです」

「そういうこと、だったんですね」


 信じられないことばかり、でもそれは自分の目で見てしまったものであり、疑う余地はなかった。

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ライカンリーパー 桐生龍次 @Ryu-G-Carlos

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