第一話 兎の少年 04

 そこから、僕が目を覚ますまで。


 まずはその話をしよう。


 まず、夏祭りは花火をあげること無く中止された。当たり前だ、負傷者が1名、行方不明が出たのだから。

 もちろんこの惨劇はニュースに挙がった。「夏祭りの悲劇」。一時はワイドショーを盛り上げた。

 刺されたコウタは、その後すぐ病院に搬送され、一命をとりとめた。障害もなく、今では無事に生活している。…まあ、僕が目覚めた時にはまだ手術している時間だったが。

 そして問題の犯人。名前は入江義之いりえよしゆき。高校生で、クラスでいじめを受けていたらしく、それで精神が崩壊されたと考えられていて、それもワイドショーを賑わせた。

 彼は…その後、警察は見つけられなかった。現在、行方不明のまま、3年たった今でも片付けられている。


 …僕は、彼がいま、どうなったかを知っている。彼は… 死んだ。何故なら、僕自身がその死体を見たから。


 僕はあのあと、どうなったのか。それは、あの事件が起きた次の日に目が覚めるところから始まる。



「うー…ん…」

「あっ、こっちも目が覚めたみたいですよ!」

「ほとんど同時に起きたな」

(なんか声が聞こえる…)

 目を開ける。僕はベッドの上にいた。

「おはよう、よく眠れたかい?」

 見知らぬ男が、椅子の上に座っている。その近くには若い女性が立っているいて、横を向くともうひとつベッドと、ミキちゃんもいた。

「ここは…?」

「あー… その答えを聞くと、多分驚かれるんだが…」

 男は頭を掻く。

「あっ、私がお教えしますねっ」

 若い女性が口を開く。

「簡潔に言うと… ここは東京の裏路地です」

「ああ、東京の…」


 東京。首都。TOKYO。家から100km。


「「…東京!?」」

 二人ともガバッと起きる。


 ズキッ

「「~~っ!!」」

 二人とも同時に激痛が走る。

「驚くのは仕方ないけど急に動くとダメですよ…」

「まああれだ、なんか知らないうちに東京に着いちまった、って感覚でいいぞ」


 なんか知らないうちに東京に着いてたまるか。


「な、なんで私たちがそんなところにいるんですか」

「というか、ここって病院じゃないですよね」

「まあまあ一度に話さずに、一つ一つ解決しようじゃないか」

 なんか気に食わない口調の男の人だなぁ。


「まず病院じゃないっていう話だが… 処置は完璧だ。あとちょっとしたら完全に動けるようになるだろう、病院なんかよりも信頼していいぞ」

 いやできないから。見知らぬ場所でしかもいつもまにか東京で治療完璧とか、信じられないから!!


「…んで、なんで俺らのにいるかっつーと…」

 隠れ家…?


「まあ、あれだ。お前ら、軽くって奴になっちまったろ」

「「…!!」」

 あの瞬間を、あの痛みを、すぐに思い出した。現実離れした、なにもかもがおかしいあの瞬間…。


「夢…じゃ、なかったんですね」

 ミキちゃんは声を低くして言う。

「…お二人が昨日、浜辺で倒れているのを私たちがパトロールしている中、で見つけました。獣の姿のまま見つかれば、ひどい騒ぎになりますから…」

「じゃあ、僕は…」


「君たちは獣の呪いを受けて、『ライカンスロープ』になっちまったんだよ」

「「ライカン…スロープ…?」」

「英語で獣人を表す単語です。この隠れ家は、そうなってしまった人たちが無事に過ごせるように身を隠す場所なんです」

「…といっても、君たちはたぶん中学生だよな。なんで、ちょっと話をしたらすぐに家に返すさ」


 獣の呪い。ライカンスロープ。


 どうやら、あの瞬間の出来事は、本当に起きたことみたいだ。

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