In the Flames of the Purgatory 78

「そら」 グリーンウッドが放り投げた骨粉入りの小壜を受け取って、アルカードは硝子壜を試験管みたいに軽く振った。

「なにをやったんだ?」

「魔力を凝集して量を絞った――それひとつで魔術の秘薬が樽ひとつぶんは作れる。捨て値で売ってもいい装備が買えるぞ」 それで用はすべて済んだので、グリーンウッドは魔術装置のあった部屋のほうに歩き出した。硝子壜を鞄にしまいこんでから、アルカードがグリーンウッドに続いて歩き出す。

「ああいう死体って、ほかには利用法は無いのか?」

「削り出して武器にする手もある。悪魔の骨格は魔力の伝導性が高いからな。ただし霊体武装に及ぶものではないから、補助的な武器にすべきだろう。すでに魔具があるおまえが、主要な装備に加える価値は無い――ただ、単なる金属製の短剣に比べれば使い物にはなるだろうな」

「なるほどね。今度悪魔を仕留めたら考えてみる」

「興味があるのなら、骨や角を俺のところに持ってこい――悪魔の骨格や角はそのままだと加工が難しくてな。加工作業に魔術が必要になる――どんなに頑張っても、おまえが自力で加工するのは無理だ」

「持ち運べる様なのを見つけたらそうする」

 アルカードはそう答えてから、グリーンウッドに続いて魔術装置の部屋に足を踏み入れた。

「ところで、あれはどうするんだ?」 ぼっきりへし折られた魔術装置の尖塔を指差して、アルカードがそう尋ねる。

「あれはもう役に立たん。術式の内容ももう読み取れないし、読み取れても解析するほどの価値は無い」

「否、俺が言ってるのは、あいつら」 と、アルカードが周囲の壁に頭だけ出して埋め込まれた人間たちを視線で示した。

「ああ、彼らか」 グリーンウッドは部屋の内周を一巡する様に視線を投げてから、

「彼らはもう助からんよ。頭の中身をいじられて、脳を全部記憶野にされてしまった――あの魔術装置の演算補助のためにな。魔術装置が破壊された以上、生命維持機能も止まってじきに死ぬだろう」

「……おぞましい代物だな」

 顔を顰めてそうコメントするアルカードに、

「否定はせん。生きた人間を調達するほうが手っ取り早いと考える魔術師は確かにいるし、そういう魔術師は倫理など気にも留めん」 グリーンウッドはそう答えて、アルカードとセアラを促して縦穴のほうに歩き出した。

 縦穴に通じる扉を開けると、まっぷたつに割れて擱座した昇降装置が視界に入ってくる。グリーンウッドがそれに視線を向けるのと同時、割れた昇降装置の片割れがふわりと浮き上がった。

 グリーンウッドはひょいと跳躍して昇降装置の上に飛び乗ると、

「乗れ。これで上まで戻る」

 簡単に言ってくれるが――生身の人間でしかないセアラには、六フィート近いグリーンウッドの背丈よりも高い位置にある昇降装置の上に飛び乗ることなど出来ない。踏み台を探して周囲を見回すより早く、金髪の吸血鬼が手を伸ばしてセアラの首根っこを掴み、そのまま昇降装置の上まで跳躍した。アルカードが巨大な岩塊の上に着地するよりも早く、昇降装置がゆっくりと上昇し始める。

「……遅いな」

 というアルカードの感想に、グリーンウッドは肩をすくめた。

「もっと速くしようか?」

「いえやめてください」

 セアラが即答すると、アルカードが露骨につまらなそうな顔をした――顔が見えなくても気配でわかる。それを黙殺して、セアラはいまだ襟首を掴んだままの吸血鬼の手から抜け出した。

 とりあえずそれで昇降速度の件には興味を失ったらしく、アルカードが周囲に視線を向ける――別段目を惹くものも無かったからだろう、彼はそれでもうそれ以上周囲に視線を向けるのをやめてしまった。

「ところで魔術師よ」 アルカードに声を掛けられて、グリーンウッドがそちらに視線を向ける。

「結局、ここの研究ってのはどこらへんまで進んでたんだ? 俺はグリゴラシュがここの魔術師――つまり、おまえの親戚の肉団子とつるんでなにやらやってるってのを聞いてきただけなんだが」

「さっき少し話はしたな」 グリーンウッドがそう返事をする。彼は一瞬躊躇する様に口ごもってから、

「ここで研究されていたのは、低級霊を憑依させて強化した吸血鬼の兵とそれに使わせる魔具だ――吸血鬼のキメラ化の研究もしていた様だが、そっちはどうだろうな」

「駄目なのか」

「吸血鬼化した人間をそのままキメラにする技術は今のところ確立していないし、吸血鬼の細胞をベースに培養するのも難しい――代謝速度が速いぶん変異も起こりやすいが、それはつまり意図しない変異や癌化の誘発にもつながるからな」 グリーンウッドはそう言ってから、アルカードの反応を待たずに先を続けた。

「吸血鬼の実験体はおまえがあらかた破壊してしまったし、上の階にあったものは俺の魔術で建物ごと消し炭だ。本人も死んだし、計画はほぼ頓挫したといっていいだろう。俺ももう、ここで知るべきことは無い」

「そうか。ついでにもうひとつ聞きたいんだがな」

「なんだ?」

「おまえ、高位神霊の受肉を人為的に起こせる様にしようとしたのが錬金術の原点だって言ってたな――錬金術は錫から金を作るとか云う、宗教並みに眉唾ものの学問じゃないのか」 吸血鬼の言葉に根本的な認識の齟齬に気づいたのか、グリーンウッドは彼に向き直ってから、

「――ああ、そうか。おまえは錬金術師と錬金学者の区別がついていないんだな」

 眉をひそめる吸血鬼に、セアラは横から口をはさんだ。

「それは錬金術じゃありません。いえ、錬金術なんですけど」

 一言目と二言目だけで矛盾している発言の説明を求めてか、吸血鬼は再度グリーンウッドに視線を向けた。

「おまえが言っているのは、確かに錬金術に間違い無い。ただ、それは魔術師の間で錬金と呼ばれるものだ――錬金学はあくまでも薬品や化学反応を用いて卑金属を貴金属に変えようとするもので、物質構造を魔術によって素粒子レベルで組み変えることで物質の構造を根本から作り変えようとする魔術師の錬金術とはまったく異なるものだ。ついでに言えば錬金学者の大半は魔術の心得など無い、ただの学者だ。ごく一部、錬金学と錬金術を組み合わせて大成した術者がいるくらいだ」

 そう言ってから、グリーンウッドはちょっと考え込んだ――門外漢の吸血鬼にも理解出来る様に、言葉を選んでいるらしい。

「我々が言う錬金術というのは、つまりおまえに言った通りのものだ。物質の構造をその最小単位まで解析し、構造を組み替えて別の物質を作り出す――手段も薬品だの化学反応だのではなく、魔術によるものだ。つまり、錬金術という名の精霊魔術の一分野だな――精霊魔術師が目指すべき、精霊魔術の究極点だともいえるが」

「それが錬金術だっていうなら、学べば俺にも出来るのか?」

「これは無理だろう」 グリーンウッドはそう答えて、軽く腕組みした。

「俺にも無理だ――おまえの肘で拳を砕かれたのを修復したのは、魔術ではなく取り込んだ魔神の能力だからな」 そう言ってから、グリーンウッドは腕組みを解いて、

「素粒子というものを知っているか? 原子や分子は?」

「すまんが知らない」 アルカードがそう返事をすると、グリーンウッドは肩をすくめた。

「だろうな――ああ、気を悪くするな。魔術師でなければ、こんなことはいちいち考えないだろうから。そうだな――たとえば水を、雫一滴よりもさらに小さな小さな一粒だけを取り出したとしよう。『水』を構成する、最小単位を分子という――水の分子が星の数ほど集まった結果、それが水なわけだ」

 アルカードはグリーンウッドの説明をなんとか理解しようとしているのか首をひねりつつ、

「水ってのはああいう形じゃなくて、ものすごく細かい粒の集まりだってことか? 砂の一粒一粒が大量に集まって砂山になる様に?」

 そのアルカードの喩えが気に入ったのか、グリーンウッドが我が意を得たと言いたげにうなずいてみせる。

「そうだ。液体そのものではなく水一粒一粒が、『分子』だ――この分子はさらにそれをもっと小さな単位に分解出来る。水は酸素ひとつと水素ふたつという二種類三粒の粒子で構成されているが、これをそれぞれに切り離したものを原子と呼ぶんだ――原子はたいていの場合ひとつでは形を成さず、同じ種類、あるいは違う種類の原子と結合して様々な物質を形成している。ここまではいいか?」

「否全然」 即答する吸血鬼にしばらく沈思黙考してから――グリーンウッドは聞かなかったふりをして先を続けた。

「原子はこれをさらに小さな単位に分解出来る――様々な素粒子と呼ばれるものがそれで、物質を構成する最小単位だ。炭素が結合状態によってダイヤモンドから消し炭まで様々な形態をとるのと同じで、素粒子はさまざまな結合パターンによってあらゆる原子を形成する――話を変えるが、天使や悪魔といった上位の霊体の受肉の仕方については?」

「受肉してるところを見たことはある」 アルカードがグリーンウッドの手元を視線で示しているのに気づいたが、それがなにを示すものかはわからない――グリーンウッドは小さくうなずいて、

「あれもそうなんだが――たとえば砂を一ヶ所に集めれば山になるが、二ヶ所に分ければふたつの山になるだろう? そんなふうにして、素粒子は結合パターンを変えることであらゆる物質の粒子構造を再現出来る。上位の霊体が地上で長時間活動するために肉体を構築する場合、周囲の物質をいったん素粒子単位まで分解してから、自分の肉体を構成するのに必要な物質に作り変えているんだ。それと同じことを、俺も出来る――正確には取り込んだ鬼神や魔人の能力だが。術ではなく能力だと言ったのは、そういう意味だ――俺の肉体の再構築は魔術によるものでなく、取り込んだ魔神の肉体構築能力を流用することで行っている。あれを魔術によって再現しようとするのが錬金術だが――」

 アルカードはすでに理解の範疇を超えているのか春の庭先で溶けかけた雪だるまみたいな顔をしながら、

「それで、その魔術師式錬金術ってのは成功したのか? おまえの言い方を聞いてる限り、失敗してる様に聞こえるんだが」

「失敗している」 身も蓋も無いことを、グリーンウッドはあっさりと答えた。

「魔術を以て物質構造を素粒子レベルから作り変えるなど、途方も無く困難な試みだ――物質を結合するには莫大なエネルギーが必要で、これをいったん分解するだけで、放出した熱量をどう処理するかという問題が発生する。再結合の際には、今度はエネルギーの不足分をどう捻出するかという課題をクリアしなければならない――その場で異なる物質に造り替えるだけならともかく、純粋なエネルギーをそのままの形で維持しておいてそれを再結合の際に使い回すという様な事は出来ないから。質量的に重い物質になればなるほど大きな熱量が必要になるから、錬金術で比重の重い金を作るのは相当難しいだろうな。それこそ物理法則を根幹から改竄する、『魔法』に等しい力量が必要になるだろう――それに、物質を完全に分解して別の物質に作り変えるなら、組み換えの対象となる元素の構造を完全に把握しておく必要があるし、余剰の素粒子やエネルギーの処理なども考慮に入れなければならない。そんなわけで、錬金術そのものはすでに廃れてしまった。錬金術は理論はともかく、実践は到底不可能だからな」 そう締めくくったところで、昇降装置が最上部に到達した――頭上に光が見え、次の瞬間には水面を通り抜けて真っ白な石材で作られた部屋が視界に入ってくる。

「ああ、こっち側の空気は旨いな」 少し機嫌がよくなったのか、アルカードが水面の上に少しだけ浮き上った昇降装置の上から床に飛び移った。

「ところで、おまえの腕の修復だが、ああいうのを魔術師がやってるのを見たことあるぞ」

「どういった状況でだ?」 アルカードの言葉に、グリーンウッドはそう反問した。

「魔術師の防御施設だったと思うんだが――向こうから仕掛けてきたんで攻め込んだら、遠隔操作された甲冑が山ほど配置されててな。斬っても斬っても、さっきおまえが自分の拳を修復したときの様に再構築されてきりが無かった」

 グリーンウッドは小さくうなずいて、

「より正確に言うなら、錬金術そのものは成功している――ただ、個人で扱う術式で物質構造の組み替えを行うことはまず不可能だ。成功例は莫大なエネルギーや素粒子の結合パターンなどの複雑な処理を大容量の魔術装置にゆだねたものだけで、その例も決して多くない――成功すれば、遠隔操作された自動人形などの破損を自動修復する様なことも可能になるがな。しかし、複数の対象を同時に並列処理する魔術装置の成功例か。一度是非見てみたいな」

 顎に指先で触れるグリーンウッドにアルカードが視線を投げ、

「それは無理だな――とっくに魔術師の研究施設ごと更地にしちまったよ。つまり、一般的に主流な錬金術は錬金学だってことか?」

「一般的にはそうだ。錬金術そのものも、今では錬金学と組み合わせて運用するものが主流になっている例のほうが多い――錬金術は単体ではたいして役に立たないもののほうが多いからな」

「……なんで」

「成果が費用と見合わん」 そう答えて、グリーンウッドは適当に肩をすくめた。アルカードがなにか言おうとするのを彼は片手を挙げて制し、

「あれを実現するのは確かに精霊魔術師の悲願なんだが――それが出来ること自体は瞠目すべき事実だが、出来たからどうしたというたぐいのことでもあってな」

「実用性が無いってことか?」

「もちろんおまえが挙げた例の様な使い方も無くはないがな――」 ただ、それを実現するまでに費やすコストを考えるとな――グリーンウッドはそう続けて、滑らかに動く扉を開けた。

「それにな、精霊魔術師が目指す錬金術はあれを個人で実現することだ。装置で制御する錬金術は、強力だし警備などの定置設備には役に立つが、それだけだ。必要なときに必要な場所で必要な様に起こせないのでは、意味が無い」

 そう言ってから、グリーンウッドは振り返って吸血鬼に向き直った。

「さて、今俺がここの施設に関して説明してやれることはこれくらいだ。俺とセアラはこの施設を再建不能な状態まで破壊してから、ここを離れる――協力に感謝する、吸血鬼ヴィルトール」

 

   *

 

 職員室のそばにある身体障害者用エレベーターの横の窓からどんよりと曇った空を見上げ、窓ガラスにぶつかっては砕け散る雨粒を見ながら、アルカードは軽く伸びをした。

 戦闘中なら雨は嫌いではないが、やはり普段は晴れていた方が気分がいい――雨が降ると車が汚れる。

 通勤組の教師たちが、職員室内で話をしながら食事をしている喧噪が聞こえてくる――室内に戻ろうと踵を返したとき、ちょうど食堂から戻ってきたところらしい物理の教師が声をかけてきた。

「やあ、ドラゴス先生――よかったらコーヒーでもどうですか?」

 たしか嶋田という名前だったか――三十路前ほどの、この学園では比較的若い部類に属する男性教師だ。

「ええ、喜んで」 嶋田について職員室内に戻り――もともとアルカードが借りている席は彼の隣なので――、借りている自分のデスクに戻る。

 嶋田はコーヒーにこだわりのある人らしく、自前のコーヒーミルを職員室に持ち込んでいる――豆を挽く時点でいい匂いがし始めて、アルカードは思わず生唾を飲んだ。

 島田はいそいそとドリッパーに豆をセットして、

「準備室ならよかったんですけどね……ここだと電気ポットしか無いから」 と言いつつ電気ポットのほうに歩いていった――朝礼後にも同じことをしているのをアルカードをはさんで反対側の薫が評するに、実験準備室ではガスバーナーでお湯を沸かしているらしい。

 アルカードが持ち込んだスノーピークのチタンのマグカップと嶋田のコーヒーカップにそれぞれサーバーの中身を注ぎつつ、

「カップとかサーバーを温められないのが申し訳無いんですが……砂糖とかは?」

「いえ、ブラックがいいので」 アルカードが答えると、嶋田はドリッパーをサーバーの上に戻して脇に置きながら、

「そうですか」

 そう返事をして、彼は机の中からコーヒー用のスティック砂糖を取り出した。

彼は砂糖の封を切って中身をカップに空けながら、

「午前中お疲れ様でした――どうです? 印象は」

「いやぁ、雰囲気は良さそうですね。仕事のやりやすい環境だと思いますよ――こういう仕事はあまり経験無いですが、落ち着いた模範的な生徒が多い様ですし」

 その返答がうれしかったのか、嶋田は我が意を得たという様にうなずいた。

「ええ、まったく――先生はALTははじめてなんですか?」 という質問をされたので、アルカードは一瞬返答に窮した。ALTはアシスタント・ランゲージ・ティーチャー、語学補佐講師の略称で、要は英語教師の補佐を務める外国人講師のことらしい。

 ちょうどいいタイミングで前任のALTが一時帰国したので、その補充という名目で通すのだと、アルカードは聞かされていた。

「ええ、はじめてです」 そう答えて、アルカードはコーヒーに口をつけた。

「これがはじめてですか。慣れないことが多くて大変でしょう」

「ええ、でも環境はいいですからすぐ馴染めそうです」

「もしなにか困ったことでもあったら、遠慮無く声をかけてください」

「そうします。ありがとう」 アルカードが微笑してうなずくと、嶋田は話題を変えた。

「ところで、先生は日本には何年くらい?」

「もう十年近くになります」

「ああ、道理で日本語がお上手だと思いました――でも、ルーマニアの出身なのにずいぶん英語がお上手だそうで」

「ええ――ルーマニアにいた期間は、ほとんど無いんですよ。ほとんど国外にいまして。一度も帰ったことがありません」

 まあこれは嘘ではない――アルカードは人間であったころの人生すべてをワラキア公国で過ごしたが、吸血鬼になってから故郷に帰ったことは一度も無い。

 ワラキア公国で過ごした時間は、彼の人生全体からすれば微々たるものだろう。ワラキアを出てから再びワラキアに戻ったことはあるが、壊滅して知己などひとりもいない故郷に吸血鬼を探しに、あるいは殺しに立ち寄るのは、いわゆる帰郷とは意味合いが違うだろう。

「俺はほとんど、世界各地を転々として過ごしてきたんです。長く留まったのは日本以外だと――フランスとドイツと、あとはイタリアくらいですね」

「それは――ご家族の都合ですか」

「ええ――そうですね」 ちょっと迷ってからそう答え、アルカードは苦笑した。確かに血縁のある相手ではあるが、ハンガリー王フニャディ・マーチャーシュの庇護のもとでワラキア公に返り咲くまでの十五年以上もの間一度も会ったことの無かったあの実の父親や義兄との確執も、家族の都合に含まれるだろうか?

「とはいえ、もうだいぶ前にその家族もいなくなりました。今でも生きているのはふたりだけで――」

 血のつながった実父という名の敵と、血のつながらない義兄という名の敵――そしてどちらも、俺が手に掛けるつもりでいます。そう続けようとして、アルカードは口ごもった。

「ふたりだけで……?」

 アルカードが途中で言葉を切ったため、嶋田がそう復唱してくる。

「――もうふたりとも、二度と友好的な形で会うことは無いでしょうね」 そう続けて、アルカードは窓の外に視線を向けた。相変わらず、雨はしばらくやみそうになかった。

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Nosferatu Blood~Legendary Dark Knight~ ボルヴェルク @Boverkr

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