始末書。「この最愛の愛娘にも祝福を。」

finfen

愛娘断章 淋しさの始末


ギルド店長様


女神 アクア 印



始末書


去る○月○日、貴店に来店した際、泥酔して自制心を失ってしまい、貴店のトイレの便器や洗面台に花鳥風月を咲き乱れさせてしまいました。

 

この度のことは、ひとえに私の不徳の致すところであり、深く反省するとともに心よりのお詫びを申し上げる次第です。

当然ながら、修理代金は私が弁済させていただきたく存じます。

また、今後二度と同様のことがないよう………………えぐっ。

……お誓い申し上げる……えぐっ。……次第です……えっ


……今後は二度と貴店に出入りいたしません…ので、……今回に限り寛大な…えぐっ……処置を賜りますよう……お願い申し上げます…うっ…

えぐっ…不始末に関しての反省の意を表したく…本書を提出いたします……えぐっ………えっ…えっ…えぐっ…なんで私が…ひっく……こんな……ひっく……ねぇかじゅまさ~ん!!」



─カズマの書斎。


独り机に座って、黙々と始末書を書かされていたアクアが、溜まらずカズマの足下に泣きついた。

後ろのソファで足を組んで、優雅にコーヒーを飲みながら、カズマは真顔で答えた。


「お前が悪いから。」


そう言うとカップの底のコーヒーの澱を見やり、くるくる回して口に運んだ。


「だって……。」


泣きながら言い澱むアクアに、片眉を上げる。


「だって?……だって、なんだ? お前がやったんだろ? おかげでギルド中の水回りの至る所がお花畑なんだよ。咲き乱れちゃってんだよ。もう排水管から何からぜんぶだ。配管からぜんぶやり直さななきゃなんねーんだぜ?ルナさんが口聞いてくれたから警察沙汰にはなってないけど、下手すりゃ拘置されてるとこだぜ?なのに、だって、なんだ?」


アクアが潤んだ目でカズマを見上げる。

噛みしめた唇がワナワナと震えている。


「……だって……。」


絞り出すように言って、またうつ向くアクアの膝に、ポタポタと涙の粒が落ちる。

カズマは大きく嘆息をして


「…お前いいかげんにしろよ? なんでなんだよ?ガキみたいに……

なんでこんなことしたんだ?答えろよ?」


うつ向いたアクアは目を閉じて、ふるふる頭を振る。


「……ごめんなさい…ごめんなさい……私…」


大粒の涙がいくつもアクアの白い太ももに落ちて、

水色のスカートにも濃い染みが拡がっていく。


カズマはもう一度嘆息すると、アクアの頭に手を置いた。


「俺が悪かったよ。ごめん。」


瞳にいっぱい涙を溜めて、カズマを見上げたアクアは、ずっと首を振りながら


「…カズマさん。私が…私が悪いの。カズマさんは悪くない。私がぜんぶ悪いの!私がこんな…駄女神だから……」


言いかけた声をカズマの唇が塞いだ。


「んっ………」


小さなアクアの頭を、強引に引き寄せる様に唇を合わせたカズマの背中に、観念したかの様にゆっくりと手が回され、キスの激しさに比例して、その手に力が込められていく。


「ん……ん……カズ…マ……さ……ぁっ」


唇が生き物の様に、白い首筋から胸に這い降りていくに連れて、涙声に混じったアクアの銀鈴の声が、艶をおびてくる。

カズマの唇は遠慮せず、どんどんアクアの美しい白肌を蹂躙した。

もはやアクアも漏れだす銀鈴を止めることなく、愛しい唇に身を委ねた。


しかし唇は突如、神々しい双丘の紅い突起を離れる。


「…アクア?」


快感の余韻に痺れ、肩で息をするアクアに言葉が投げかけられた。

かろうじて残る理性が口を突く。


「……はい…カズマ…さん…?」


カズマは、上気し紅く染まる絶世を正面に見やり、微笑んで言った。


「…お前、淋しかったんだよな?

俺がずっと忙しくて、お前に構ってやる暇なかったから、拗ねてただけだよな?

やっぱ俺が悪いよ。ほっといてごめん。」


アクアの瞳が涙で溢れた。

それは止めどなく、流れ出した。


「…カズマ……カズマ!!」


カズマは微笑んで、大事そうに大きなアクアのお腹を撫でて


「……こいつの為に、俺は誇れる父親になりたいんだ。

世界最強で、世界最愛のこの愛娘が、誰にも誇って自慢出来る父親になりたい。その為に、今は休んでることが出来ない。お前にもこんなに淋しい想いをさせちまってた。ほんと、ごめん。

でも、もうちょっとでかたちに出来そうなんだ。

めあねすの為に、俺が遺してやれる最大のもの。

だから、もうちょっとだけ、力いっぱいやらせて欲しい。」


アクアは泣きながら、女神らしく微笑んでうなずく


「…はい。カズマさんがやりたいことを精一杯やってください。

私は何処からでもずっと、あなたたちを見守っています。」


「大袈裟だな? そんなに離れたりしないぜ?

離れても王都に行くくらいだ。大丈夫だよ。」


アクアは少しだけ哀しそうに目を反らして、すぐに微笑んだ。


「はい。あなたを信じています。」


カズマはアクアの額に軽くキスしてから言った。


「愛してるよ。アクア。俺が必ずお前たちを守ってやる。」


アクアは目を閉じて、その言葉を噛みしめる様にうなずいてから、

愛しい勇者を抱きしめた。


「愛していますカズマ。今もこれからも。

いつまでもあなたを想い続けています。」



─それは、世界最強にして最愛の愛娘が、この世に生まれるほんの三ヶ月前の始末。


このあと

このふたりが身体を合わせることは、もう二度と無かった。



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