第4話

 それから、わたし達は他愛のない話をして校門に差し掛かろうとしていた。

 その時だ。

「おい、そこの生徒」

 わたしが呼ばれたような気がして声の方を見れば、校門を挟んだ向こうには、見るからに体育教師といったジャージ姿の男性がいた。

 年齢は三十歳半ばといったところだろうか。そして、学校の敷地内にいるということはあの男性は先生なのだろう。

「……?」

 わたしは声を掛けられたのが華名ではなく自分なのかを自分を指差して尋ねると、先生は頷いてから、こっちに来いと手招きをした。

 あー、このツノについて言われるんだろうなーと、わたしは華名に先に行くよう促してから、言われた通りに校門をぐるっと回って先生の立つ場所に寄っていく。

 歩いていると気付かなかったが、立ち止まるとわたしの脚は小刻みに震えているのが分かった。

 はたしてこの震えは、初めて先生に注意されることからくるものとツノについて訊かれること、どちらからくるものなのだろうか。

「…………」

 そんな状態のわたしを、先生は下から上に順に見ていって、最後にその視線を顔に向けた。

「ん? 見た事が無い顔ってことはお前、今日入学の一年生か?」

「はい!」

 訊かれたことにわたしは、つい、上擦った声で返してしまう。

 服装やなんやで注意されるのが初めてだったのだから、これくらいは不自然だとは思わないでほしい。

 そりゃ、わたしだって注意されるのが温厚そうな老教師ならこうも固くはならなかっただろう。だが、今目の前にいるのは大柄な男性教師。老教師と対極にいるような存在を前に普通にしていろというのは、中学時代は真面目な女学生で通してきたわたしには荷が重い。

 ついつい、萎縮してしまうというものだ。

 そんなわたしを前に、先生は嘆息してから自分の頭を掻く。

「で、なんだそれは?」

「えっと……」

 正直に言うべきかどうするべきか。

 迷いながら、わたしの視線はここから見える登校中の生徒に向けたり、先生の背後に見える木の幹の方を向いたり。

 そうして迷った末、わたしは華名に言われたことを思い出した。

「これは、その、角質が変化したもの、です」

 おどおどとして答えるわたし。

 そんなわたしに対して先生は再度、嘆息してから頭を掻いた。

 その行動は癖なのか呆れているからなのかは分からない。

「あのなー」

 先生は言う。

「俺が言っているのはこっちじゃなくてそっち。靴下の方。うちの校則では靴下は黒か紺色って決まってんの。知らなかったのか?」

「――えっ、あれ?」

 そこ? 指摘するのそこ? 

 慌てて自分の足元を見れば、たしかにそこには白い靴下があった。

「あーっ、あの、その、色々あって忘れていました」

 たはは、と愛想笑いをすると先生は、登校初日からそんな調子で大丈夫か? と呆れたように言った。

「んじゃとりあえず、入学初日ってことで。今回は大目に見るけど、次からは黒か紺色の靴下を履いてこいよ」

「はい。すいません、次から気をつけます」

 謝りながらお辞儀をすると、先生は行ってよしと手を振って校門の外へと視線を向けた。

「はい。それでは失礼します」

 言って、先生と違ってこれ以上ここに居続ける意味がないわたしは言われた通り、小走りにその場を後にする。

 足を向けるのは新入生であろう生徒たちが集まる、掲示された模造紙の元。

 そこに向かいながらわたしは呟く。

「ツノがあるのが変って、わたしの考え過ぎだったのかな……」

 まあ、コンプレックスなんて本人が過剰に気にし過ぎというのもあるのかも、と前向きに納得してわたしは新入生の中に紛れた。

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起きたらーーが生えていた。 imi @imi_06

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