第32話

 翌日。学校にて。

 僕は里香と軽い挨拶を交わし、ある人物の元へと向かった。一年B組の彼女だ。


「ごめん、悪いんだけど、柏木さん呼んでもらえるかい?」

「ん? ああ。友梨奈、用事があるそうだ」

「ありがとう」


 僕が礼を述べると、友梨奈を呼んでくれた男子も軽く笑みを浮かべた。


「どうしたの、竜太?」


 友梨奈は少し、いつもよりテンションが低いようだ。だが、それも今日の放課後まで。


「友梨奈、うちのクラスの榊山篤くんが、君に用事があるんだって。一緒に帰ってあげてもらえるかい?」

「え? ええ、構わないけど」

「それじゃ」


 そして一年A組に戻るなり、僕はずいずいと篤を中心にした仲良しグループに近づいた。


「篤くん、ちょっといいかい?」

「ん? ああ。皆、ちょっと待っててくれ」


 そして僕は話した。友梨奈に話したのと同じことを。ただし、当然ながら立場は逆。

 友梨奈は篤が、篤は友梨奈が自分を待ってくれているものと思わせたのだ。


 僕が多かれ少なかれ依存していた、友梨奈と篤。二人にとって、これが余計なお節介なのは百も承知だ。それでも二人の善意に応えたい、いや、他人の善意だけに甘えていたくはない。そんな意志が、僕を勇気づけた。

 それに、友梨奈には約束してしまったからな。絶対に反故にするわけにはいかない。


 そして、放課後。

 里香が新しいスマホを見に行きたいと言うので、同伴することにした。今までは学校から帰る道のりが逆方向だったから、あまり一緒に歩く機会がなかった。しかし、これなら一緒に街を歩ける。デート、だろうか。

 唐突に思い浮かんだ『デート』なる言葉。僕は里香の隣を歩きながら、どうしようかと思案する。僕が一度深呼吸をし、里香の方に振り向くのと、里香が僕の方を見るのは同時だった。


「あのっ!」

「あのっ!」


 完全にハモった。赤面する僕と里香。里香は俯いてしまったが、しかし僕はそんな彼女を見つめ続けた。


「手、繋いでもいいかな」


 ピクリ、と肩を震わせる里香。


「あの……。もしよかったら」


 すると、里香は一瞬ポカンとしたが、すぐに満面の笑みを浮かべ、


「うん!」


 と大きく頷いた。

 

 こうして、僕の本当の意味での青春は幕を開けたのだった。


 THE END

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可愛い孫には異世界体験 岩井喬 @i1g37310

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