最終話【残った謎】
「なぜ偽SOS団の団長が僕でなければいけないのかな? そこのところを涼宮さんの口から直接聞きたい」
佐々木さんの口から出てきたその言葉で背筋にビキッと来た。
なんとなく上手くいってしまったかのような雰囲気に浸かっていた。だが佐々木さんはまだ納得してはいない。
涼宮ハルヒの返答次第では偽SOS団空中分解もあり得る。いったいどう答えるつもりだ?
「覚悟はいいわね? 佐々木」
「うん」
不安をかき立てられるような前振りだ。
涼宮ハルヒは佐々木さんを指差し、静かに、だがはっきり聞き取れる声で言った。
「あんたが『偽SOS団』なんて名前をつけたからよ」と。
「なるほど、ね……」と佐々木さん。
「察しが早くて助かるわ。じゃ、そういうことだから」
涼宮ハルヒは話しを終わらせようとしていた。
「待て!」僕が割って入る。「——よく解らなかった」、そう言うしかない。
「解るでしょ? それくらい」と涼宮ハルヒ。
「まあまあ涼宮さん、考えてみれば人は『解ったつもり』になっているだけかもしれない。最後まで言ってみるのも必要かもね。九曜さん、どう? 解った?」
——それは人じゃないかもしれないが。
「わたし——には——理解が、足りない——」九曜は言った。
解ってて解らないフリをしているのか、本当に解らないのか今ひとつ判断に苦しむ。
「じゃあ敢えてなんとなく解った気になってる僕を含めてみんなに解るようにお願いしたい」佐々木さんが涼宮ハルヒに言った。
「しょうがないわねえ」と涼宮ハルヒは前置きし、
「本当はこんなこと口にもしたくないんだけど——」とさらに前置きし、
そして間を置く。
「あっちはSOS団、こっちは偽SOS団、あっちの涼宮ハルヒはなんかすっごい力を持っている。こっちの涼宮ハルヒはなんの力もないただの人。これじゃああたしはまるで涼宮ハルヒに憧れて劣化コピーのパクリをやってるだけの下らない人間だわ。あたしだって本物の涼宮ハルヒなのに!」
「もういい。涼宮さん」佐々木さんが止めた。
再び佐々木さんが口を開く。
「——名前さえも『偽SOS団』にしてしまった以上、何から何まで同じにはなりたくない、という理解で間違いないよね?」
「そう、さすが佐々木ね」
涼宮ハルヒは天井を仰いだ。
「解った。偽SOS団二代目団長を確かに引き受けることにする」
佐々木さんは言い切った。
◇
偽SOS団活動の第二回目が終わった。
九曜が佐々木さんと橘京子を伴いこの『12月18日からの世界』を後にしていった。
涼宮ハルヒはいつまでも名残惜しそうにバスルームのドアの前から動こうとしない。この九曜の部屋には僕と涼宮ハルヒのふたりっきりになっているというのに。
これはあのことを〝訊け〟ということなのか。
僕には、実は僕だけの謎がまだ残っている。
これだけ顔を合わせているが、涼宮ハルヒに話しかけるなど僕には非常な勇気を伴う行為だ。だがどうしても————
「ちょっといいか」
「あたしは〝ちょっと〟なんて名前じゃない」
「涼宮……さん……」
「……なんか嫌々呼んでるみたいね。で、なんの用事なの?」
涼宮ハルヒは顔をこちらに向けずに言った。
「僕はあんたに投票した。九曜からは『涼宮ハルヒに入れるよう』要求もされている。約束は守った。だが最初から佐々木を団長にするつもりなら、僕の投票行動をあらかじめ縛ることになんの意味があったんだ?」
「あんたそんなことも解らないの?」
「解らないから訊いている」
「佐々木に団長を引き受けさせるには、このあたしが佐々木に投票することが必須だった。でないと佐々木が納得しないでしょ」
「それで?」
「〝それで〟じゃないわよ。もうここまで言えば解るでしょ!」
「佐々木も言っていた。人は『解ったつもり』になっているだけかもしれない」
「しょうがないわねえ——」、と言いながら涼宮ハルヒは僕の方に顔を向けた。露骨に『嫌だ』という顔をしていた。
「あたしが佐々木に入れて、あんたも佐々木に入れたら、あたしの票は何票なの? くーちゃんが入れてくれた『たった1票』だけになっちゃうじゃない。選挙をやって1対4の大差で負けるなんて屈辱は絶対に許せない。負けるにしても1票差じゃないと!」
「でも実際は勝っただろう」
「それは佐々木があたしに入れるからよ。まさか勝つなんて思わなかった。ホント、佐々木って裏をかいてくれるわね」
「そいつはお互い様だろう」、僕は言った。
フン、1票差の僅差で負けるために僕に『涼宮ハルヒ』と書かせて投票させようとしたわけか。
バカバカしい。
だが、涼宮ハルヒに対するあり得ない感情の湧き上がりを自覚する僕がいる。これは気をつけなきゃいけない————
(了)
涼宮ハルヒの憂鬱シリーズ第12.5巻(むろん二次) 夏、偽SOS団な日々 齋藤 龍彦 @TTT-SSS
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