第十話 不滅の愛

災難さいなんだったな。しかし、生きていてよかった」

「ありがとうございます。バスタパータさま」

流暢りゅうちょうに話せるようになったじゃないか。さすがは――」

「いまのオレは、オークです。なまえは、それだけです」

「そうか。人間との橋渡はしわたし、頼むぞ」

「おまかせください」


 魔王城まおうじょうの近く。

 犬のような顔の魔法使まほうつかいが、笑っていた。

 勇者ゆうしゃ魔導士まどうしは、骨で作られたモンスターの大群と戦っている。

物量作戦ぶつりょうさくせんだな」

 突如現れた女騎士おんなきしが、骨を一薙ひとなぎで粉砕ふんさいした。

援軍えんぐんだ! お前たちは、奴を!」

 よろいから伸びるけん軌跡きせきすべるように流れ、舞い散っていく骨。

「う、うん。助かるよ」

「やったぜ。今度こそ終わらせるぞ」

 三人は、踊っているかのように華麗かれいな動きを見せた。きらめく閃光せんこう。雷が魔物まものを追い詰め、光のけんが花びらのように舞う。

 断末魔だんまつまげるもなく、ナイマトンは煙となって消えた。


 魔王城まおうじょうからオークが出てくる。

 見知った顔の女騎士おんなきしを見つけた。笑顔で近付いていく。

「え? 知り合い?」

「そうか。まずは、ごめん」

「いや、勇者ゆうしゃは悪くない。謝るのはあたし。ごめんなさい」

 勇者ゆうしゃの少年と魔導士まどうしの少女は、オークに謝った。

「きにするな。みんなで、かえろう」

任務完了にんむかんりょうだ」

 女騎士おんなきしが同意して、四人の姿は消えた。

 コチ村の中心部にある広場に現れると、歓声が起こった。


「俺たちは、たいしたこと、してないから」

「そうそう。本当だから」

 勇者ゆうしゃ魔導士まどうし謙遜けんそんしていると思われ、手厚い歓迎を受けた。

 祭りでもないのに、大きな笑い声であふれる村。


「さすが、おれの娘だな」

「おれたちの、でしょ?」

 モケスタとイハナンの前には、ロケアがいた。

 女騎士おんなきしは、恥ずかしそうに微笑んだ。


「オレ、いわないといけないことが、ある」

「うん」

 二人は川の側にいた。

「オレは、にんげんじゃない」

「うん。それで?」

「え?」

「ほかには? 言うことある?」

「とくに、ない」

「なら、広場に行こうよ」

「わかった」

 ミウナとオークは、歩き始める。


「俺たち、もういきます」

「えーっと、ありがとうございました」

 事情通じじょうつうに表立ってお礼を言えない二人は、さりげなく手を振った。

「オレも、つれていってくれないか?」

 オークの言葉に、村の人々はすぐ反応した。

「それはないだろ。せっかく、馴染なじんできたのに」

「そのとおり。寂しいと言える」

「あの二人のあいだに入るのは、野暮やぼだぜ」

 オークが悩んでいるうちに、勇者ゆうしゃ魔導士まどうしは去っていった。


「なら、私といくのはどうだ?」

「いいのか?」

「そうすれば、いつでも帰れるし、な」

 女騎士おんなきしロケアは、母親のほうを見て笑った。

「オレ、やることがある。でも、だいじょうぶ」

「うん。大丈夫」

 おさげのミウナは、瞳をうるませていた。

「ムラのみんなは、かぞく。オレ、すぐにかえってくる」

 満面の笑みを浮かべた少女。その目から、涙がこぼれた。

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私のオークさま 多田七究 @tada79

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