第九話 魔王の領域

 オークは、家に戻らなかった。

 夜。コチ村近くの山頂。

 月の明かりに照らされた横顔が、動いた。

「最初に説明しますが、これは伝言です。一方通行いっぽうつうこうです」

 魔力まりょくで作り出された虫から、声がひびく。

「次の満月の日、一斉に攻撃を仕掛けます。命令です」

 さらに声は続く。

魔王様まおうさまが、望んでいます。服従しなさい」

 声が消えた。虫を踏みつぶしている、オーク。

「バスタパータさまの、めいれいではない。ナイマトンか」

 ブタ顔の大男は、魔力まりょく身体能力しんたいのうりょくを強化した。もともと強靭きょうじん身体からだが、さらに強まる。あっという間に山を下りていく。


 ミウナの家に行くと、扉の前に誰かがいた。

「おかえり」

「ただいま」

 オークとミウナは、家の中に入った。

 村に設置されている魔道まどうセキュリティに、反応なし。

 町に近付いたトカゲのように、魔法まほうで無効化したわけではない。

 オークに敵意はなかった。


「どうすればいいか、オレにはわからない」

 オークは、モンスターの襲撃しゅうげきについて、相談していた。

 ミウナとモケスタは、悩んでいる。

「満月まで時間はあるし、明日、考えましょうよ」

 イハナンはのんきだった。

 ミウナと両親は、それぞれの部屋に向かう。

 魔法まほうの照明が消えた。

 いつものように、リビングルームで眠りにつくオーク。


「どう思う?」

「一体だけなら、なんとかなるかも」

「かも?」

「いや、なんとかする。俺に任せろ」

「うん。任せる」

 勇者ゆうしゃ魔導士まどぷしは、事情通じじょうつうの話に乗った。


「オレは、まおう、に、あいにいく」

 次の日。朝食のあと、オークが決意を語った。ミウナは慌てている。

駄目だめだよ。危ないよ」

「そうだぞ。さすがのおれでも、止めるぞ」

 ミウナの父親も動揺どうようしていた。

 ミウナの母親は、普段どおりに微笑ほほえんでいる。

「本当に、いいのね?」

「もちろんであります!」

 オークに迷いはなかった。

「なんで、そんな言葉を!」

 おさげの少女は、ツッコミを繰り出した。

 ブタ顔の大男に直撃する。すぐに魔法まほうが発動。消える姿。

 現れたのは、いつもの採石場さいせきじょうではなかった。


「取り巻き、多すぎ」

「さすがに、城の近くは、一筋縄ひとすじなわではいかないな」

「大丈夫?」

「普段から、このくらい優しいといい、って」

「そうだね。生きて帰ったら」

 空には赤い雲。大地は黒い。

 勇者ゆうしゃ魔導士まどうしが戦いながら話していると、何かが転移てんいしてきた。

 二つの杖を変形合体させる、魔導士まどうしの少女。勇者ゆうしゃも光のけんを構える。

 転移てんいしてきた何かには、見覚えがあった。

 それは、モンスターを次々となぎ倒して、城の入り口付近で止まった。

援軍えんぐんって、これか。確かに強力だけど」

「ナイマトンってやつを、早く倒すぞ。勇者ゆうしゃ

「ああ。俺たちなら、やれる」


 オークは、魔王城まおうじょうに入った。

 謁見えっけんへと向かう。

 久しぶりだった。自分の家のように過ごした場所。

 あのときのように、誰かが立派な椅子に座っている。

 あのときとは違って、オークは、ゆったりとした布を身にまとっていた。

 オークは、バスタパータと再会した。


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