第八話 魔道の極意

 つのの月が終わり、はなの月が始まった。

 しげる若葉。村では、農作物の世話に魔法まほうが使われている。だが、細かい部分は昔から手作業。

 川の近く。畑に誰かがいた。

「やはり、収穫を魔法まほうでおこなうのは、困難こんなんと言える」

 皿の上で、柔らかい果実がつぶれている。イウシカが美味しくいただいていた。

 その様子を眺める、ブタ顔の大男。


「おはよう」

「朝か。おはようと言える」

 オークの挨拶に、短い髪の若者が答えた。大きく伸びをしつつも、何かを考えている。

「ちゃんと寝ないと、駄目だめですよ」

 大柄おおがらの男の後ろから、十代半ばの少女が現れた。口をとがらせている。

 細身の姿は、オークにすっぽりと隠されていたのだ。

「なるほど。果実の外側を別の魔法まほうで包み込めば、可能と言える」

 近くの小屋に入り、本をあさり始める若者。

 イウシカは魔導士まどうしだった。


 朝の運動を終えた、ミウナとオーク。

 家に帰ると、ダイニングルームへ行く。

 朝食を食べた。

 魔法まほうで収穫をおこなうには、どうするべきか。

 その話に、何も言わず微笑ほほえむだけの、ミウナの母親。ミウナの父親は、頭をひねるばかり。

 しばらく雑談した四人は、二人ずつに分かれて歯を磨いた。


「きおくを、とりもどしたい。キョウリョクしてほしい」

「協力したいけど、本当にいいの?」

「まえに、ツッコミをうけたとき、なにかをおもいだせそうだった」

 オークに頼まれた少女は、母親を見た。

 ミウナの母親は、優しくうなずいた。

「イウシカに、ちゃんとイウシカ、っていうのはどうだ」

 ミウナの父親は、ダジャレを言った。

 反応は、イマイチだった。

「ケンでカッテラにかってから、まちにいったな」

「ありがとう!」

 おさげの少女は、感謝の言葉を口にした。

 魔力まりょくで強化されたツッコミがうなる。ブタ顔の大男は、微笑ほほえみながら顔面で受けた。

 即座そくざ魔法まほうを発動する、ミウナの母親。

 空間が操作され、すぐに、巨体が採石場さいせきじょうへと飛ばされた。

 例のごとく、切り立った崖に轟音ごうおんひびく。


 色のついた夢。

 人の姿をした怪物がいた。凄まじい魔力まりょくを感じる。

「できれば、話し合いで解決したい。分かるな?」

 言葉がはっきりと理解できた。微笑ほほえみをたやさない相手。

 魔王まおうは、立派な椅子に座っている。

 謁見えっけん。ここは、魔王城まおうじょうの中だ。

 オークは目を覚ました。


「大丈夫?」

「オークだから、だいじょうぶ」

 ミウナに笑顔を見せる、ブタ顔の大男。

 リビングルームで上半身を起こし、窓の外を見た。

 いつもなら、口をはさんでくるミウナの父親は、黙っていた。

「どうだった?」

「きょうりょくしてもらったのに、すまない」

 オークは、すこし寂しそうな顔で、家を出ていった。

 追いかけようとしたミウナを、母親が制止する。


「なんでもわかっているから、ムラで、のんびりしている?」

「どう思っても、構わないわ」

 ミウナの母親は、優しい声で話を続ける。

「なんでもできるからって、何をしてもいい、というわけではないのよ」

 オークとイハナンは、山の頂上から村を見ていた。


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