第七話 弓の名手

 ミウナとオークが町から戻って、数日後。

 コチ村では、祭りが迫っていた。

 お昼過ぎ。みんな、普段よりすこし派手な民族衣装みんぞくいしょうを着ている。

 村の近くにある山に全員が登り、中腹ちゅうふくを目指す。さほど距離はない。しかし、高さがある。見張り台の近くに集まった。

 眼下がんかの村の中には、派手な飾り付けがある。

「まず、届かないと言える」

 見張り台の上から矢を放ったイウシカは、弓を置いた。魔法まほうで耐久力の上げられた矢といえど、飛ばすのは人間の力。

 村の中にある的に矢を当てるという、古くからのお祭り。

「いよいよ、おれの番だぜ」

 髪の長いトウリイが、名乗りを上げた。弓が得意な青年。見張り台の上にいき、弓矢を構える。

 げんがきしみ、見物人にも力が入る。

 放たれた矢は、飾り付けの近くに刺さった。歓声を上げる村人たち。


「オークも、やってみて」

 おさげの少女に言われて、ブタ顔の大男が見張り台に上った。

 トウリイの声が、下から聞こえる。

げんを切らないように、加減だ。楽にやろうぜ」

「わかった。やってみる」

 ゆったりとした布をまとったオークは、軽く弓矢を構えた。

 指が離れ、矢が飛んでいく。

 風を切り裂き、うなりをあげる。刺さったのは、的の真ん中。


「少しは、腕を上げたようだな」

 ミウナの父親は、上から目線で告げた。

 たくましい体つき。だが、オークの背はさらに高かった。

 興奮にいた村人たち。落ち着きを取り戻している。

「モケスタも、どうかしら?」

「いや。おれが出るまでも、ないだろう」

 ふわふわした髪のイハナンに言われて、ミウナの父親は即答した。

 ミウナは両親を見たあと、オークに近寄る。

「すごいよ。真ん中に当てたの、見たことなかった」

「トウリイにオシえられたとおり、やった」

「そのとおり!」

 次の瞬間、少女から、光速を超えそうな勢いでツッコミが放たれた。

 それを目で追っていた、ブタ顔の大男。

 しっかりとじっくり最後まで見て、避けなかった。

 オークは、的まで吹き飛んだ。派手な飾り付けをなぎ倒して、止まった。


「今年の祭りは、最高だね」

 ナウラーが、オークを魔法まほうで治してから言った。髪の長い女性は、心の底から笑っている。

「オレも、まつりはサイコウだとおもう」

 オークも、心の底から笑った。

 ブタ顔の大男が、ミウナの家に歩いていく。扉が開いた。

 魔力認証式まりょくにんしょうしきのセキュリティは、作動しなかった。

 魔力まりょくのこもったツッコミを受け続けたことにより、オークは魔力まりょくを得ていたのだ。


 家の中で、魔法まほうがかかったほうきを見つけた。

 不器用な人でも、うまく掃除そうじができる一品だ。

 外に出たオークは、ミウナと出くわす。

「どうやって、入ったの?」

「ふつうに、トビラがひらいた」

「いつのまに、魔力まりょく基礎修行きそしゅぎょうをしたの?」

「ミウナのおかげね」

 ミウナの母親が断言した。ツッコミの説明をする。

「これで、一人で家に入れないのは、おれだけか」

 ミウナの父親はうなだれている。モケスタには魔力まりょくがない。

 すぐに、イハナンがモケスタに寄り添う。

「わたくしと一緒じゃ、ご不満かしら?」

「いいえ。ありがたき幸せ」

 ミウナの母親とミウナの父親は、幸せそうだった。

 ほうきを持ったオークは、嬉しそうな顔。飾り付けが散乱した場所へ向かう。

 おさげの少女も、嬉しそうに隣を歩いていた。


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