小さい時って、今と別の時間が流れていたような気がする。
身長も低いせいなのか、今と違うものが見えていた。

小さいから容量がすぐにいっぱいになってしまって
大切に思っていたことの心を占める割合が大きかった気もする。
四季や自然とももっとなかよしだった。

お祭りの情景や、灯りや、魅惑的なたべものもそうで
いまだにお囃子の音なんかしてくると、近づきたくなってしまう。

そんなシーンを共有できる大切な相手がいて
互いに想い合ってることを確認できたら、しあわせすぎるねっ。

　恋愛小説を得意とする作者様によって紡がれる、一夏の思い出。
　毎年二人で見ていた花火と祭り。
　しかし今年は一人で見ることになってしまった。
　主人公である女性の胸には、寂しさだけが降り積もる。
　母があつらえてくれた浴衣で、二人だけの花火の特等席に向かう。
　そこは神社の裏手にある秘密の空間だった。
　花火を見上げる女性のもとに、現れたのは――。
　情景が浮かんでくる田舎の風景が懐かしくて、ノスタルジックな雰囲気に浸ってしまいました。花火の光景が目に浮かぶようで、咲いては散る夜空の花を、特等席で一人で見上げる女性に感情移入できます。

　是非、御一読ください。

彼のいない夏の夜の打ち上げ花火。
高台にある村の神社の裏の草むらから見下ろす。
まわりは慣れ親しんだ土や草の匂いがいっぱい。
いっとき楽しかった思い出に浸る。
それで話は終わると誰もが思った筈。
この作者がそんな話を書くはずがない。
と思ったら、やはり、最後の最後、海外にいる筈の彼を登場させた。
夢とかまぼろしなんて話にしたら、ぶち壊しのところだが、
彼女が彼に抱き付いて、嬉し涙を流すところで終わって良かった。

日本の夏ってこんな感じ。
虫取り、神社の裏、夏祭りの出店、浴衣、花火。当たり前のように過ごしているけど、どこを切り取っても切なさを含んだ美しさがあるんですよね。

主人公の切なさと、日本の夏が持つ独特な切なさが重なって胸が締め付けられます。

ただ、切なさばかりではありません。
打ち上げ花火を見終わったあとのような晴れやかな気持ちになれますので、この季節に是非✨

隣にいるのが当たり前で、それが無くなると心にぽっかり穴が空いたようになるもの。
愛おしい存在がいなくなった寂しさも、懐かしい田舎に帰って少しづつ元気になっていく様子も、読んでいて心に響きました。

最期も綺麗な形でまとめられていて読後感がありました。