第2話おやすみ



「どうしたの?」

「いや別に…」

 自分をコントロールできなくなれば、他人にも嫌な気分を分け与えてしまう。必死に口角を上げ、私は脳をだます。電車の窓に映る顔が物語っているのは、羨望の眼差しを向けられたい気持ちの滲み出た情けない人生だ。胸を張って自分に自信が持てない女だ。想像の中で私の華やかな人生は完結している。想像と現実の埋められない絶対値に絶望しながら、行動を起こすことのできない生き物だ。


 目を閉じて、この世界から離れられないことに不安を覚える。繰り返す日常の中の、目を逸らして来たものたちに責め立てられている気分だ。

「これさえなければなぁ」

 両手で目を隠す。有効活用できるはずのものを違う方向に向けていることはわかっている。でも片手で握りつぶせるこの世界には、目まぐるしく変わるものにしがみついていられなかったら認めてもらえないのだ。繋がっていられることが大事なのだ。


 誰に認めてもらいたいのか?

 私にだってわからない。


 きっと彼だって私を笑っているんだ。いつでもそこにいて、こんな私を笑っているんだ。明日もまた会えるんでしょ?その罪悪感を私に教えてくれるんでしょ?私と彼には終わりはない。


 私が世界を手放さない限り。

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目の奥 柊花 @idoitknit

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