絶対に成功するしかない偉人バー

ちびまるフォイ

よく注意しないのが失敗者の特徴

この世界は情報を制したものが勝ち組になる。

成功のノウハウをどれだけ聞けたかが勝利のポイントだ。


「いらっしゃい。時代バーへようこそ」


バーの店内はごく普通のつくりになっていて、

ここで歴史の偉人と話ができる特別なものだとは思わない。


「あの、本当にここで歴史の偉人の話が聞けるんですか?」


「ええ、もちろん。どんな人でも召喚できるわ」


バーのママのお墨付きをもらったので、聖徳太子を読んでみた。



「まろが聖徳太子じゃ。なにようかな?」


「おお! 本物だ!」


聖徳太子を選ぶと、隣の席に見慣れない帽子をかぶった男がやってきた。


「あの、成功者のひけつを教えてください!」


「隋にゆけ。以上じゃ」


「そういうふわっとしたアイデアじゃなくて……もっと具体的に」


「そうさな、相手を認めることじゃて。

 相手の良さを認めることで自分の欠点がわかってくるものじゃ」


「ふむふむ、なるほど……!」


聖徳太子から考えられるだけの成功するための方法を聞き出した。

こんなに有意義な会話は現代人ではできないだろう。


「次はどうするのん?」


「次は、リンカーンを呼んでください!!」


今度はリンカーン元大統領が席に召喚された。



「人民の人民による、人民のための私……登場!!」


「こんなテンションだったんだ……」


「して、我輩になにかようかね? 人民?」


「ええ、あなたに成功者としてのヒントをいただきたくて」


「よかろう。まずは人民のことを大事にすることだ。

 利益ばかり優先せずに、人民を思いやってこそ結果的に利益がついてくる」


「なるほど……今でいうフォロワーを大事にしろってことですね」


「まぁ、とかいう私も人民を大事にするあまり

 自分の妻を大事にはしなかったんだがね! HAHAHAHAHA!」


「そういうアメリカンなジョークはいいですよ!!」


リンカーン元大統領からも超有意義な話をきいた。


聖徳太子とリンカーンからこれ以上ないくらいの勝ち組への方法を学んだので、

今度はヒットラーを呼んでカリスマ性を学ぶことに。


「わかたわ、ヒットラーねん」


ママは呪文を詠唱し、英霊を呼び寄せた。



「ハイルヒットラー!」


元気なちょびひげの男がバーの席に出現した。


「は、はいるひっとらー……」


「声が小さい!! おっぱいぷるんぷるん!!」


「そんなことさっき言ってなかったですよ!?」


ヒットラーはバカでかい地声で自分の成功体験を語って聞かせてくれた。

それと同時になにを失敗したのかの話もしてくれた。


「私の失敗は敵を作りすぎたことだ。

 敵を作れば人をあやつりやすくなるが、報復も受けやすい。

 敵は倒した後に友とすることを忘れるんじゃないぞヒットラー」


「思い出したかのように語尾つけるんですね」


「やかましい! ハイルひっとらえるぞ!」


「すみません! 総統!!」


「よろしい!! ヒットラー!!!」


終始こんな調子で総統からはたくさんの話を聞いた。

準備してきた俺のメモ用紙は勝ち組への方法でいっぱいになった。


「いやぁ、これだけあれば俺は間違いなく勝ち組の仲間入りだ!

 今日はほんとうに有意義な話を聞けたぞ!」


「それはよかったわぁ」


ふと、最初のママの言葉を思い出した。



「あの、最初に"どんな人でも呼び出せる"って言いましたよね?」


「ええ、どんな人でも呼び出せるわ」


「未来の人でも呼び出せるんですか?」


「もちろんよん」


「本当ですか! それじゃ、未来の俺を呼んでください!!」


「わかったわぁ」


ママは呪文を唱え始めた。


未来の俺はどうなっているんだろう。

きっとものすごい勝ち組人生を満喫しているに違いない。


これだけ成功者の話を聞けたんだから、きっと。



バーが光に包まれると、未来の俺が隣の席についた。

その姿は俺の想像を超えていた。



「な……なんでそんなボロボロなんだよ!?」


「……うるせぇ……好きでこんなになったんじゃない……」


未来の俺はまるでボロ雑巾のように薄汚れて、

服なのか布きれなのかわからない前バリで髪はぼさぼさ……。


俺の思い描いている成功者の姿からは程遠かった。


「どうして!? こんなにも成功者の秘訣を聞いておいて、

 どうしてそこまで落ちぶれるんだよ!?」


「すべては金ってことさ……」


「だから! その金を得る方法をここで学んだんだろ!? この召喚バーで!」


「それがすべての間違いだったんだよ……はぁ……」


俺はすぐに小汚い未来の自分を元の時代へ蹴り戻した。


ふざけるな。

あんなのが自分のわけがない。


「信じてたまるか……あんな未来なんて!」


「そうよん。大事なのは今どうするかが大事なの」


「ママ……! そうだよ! あんな未来にならないように

 今を精いっぱい頑張ればいいだけじゃないか! 未来は変えられる!!」


見てろ、未来の俺。


ここで学んだ勝利者の話を参考にしてのし上がってやる。

絶対にあんな未来にならない。


俺のサクセスストーリーはこれからだ!!!







「それじゃお会計は……偉人召喚と未来召喚あわせて10億円ね」



その日、ぼったくりバーに来てしまったせいで俺の人生は終わりなき借金生活へと転げ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絶対に成功するしかない偉人バー ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ