まじかる☆ニンジャ ♪隠密魔法少女チヨちゃん♪

及川シノン@書籍発売中

マジカルマックス 怒りのデス・ロード

 邪馬台の卑弥呼が魔法少女であったという説は、今や周知の事実である。

 呪術は奇跡であり、奇跡の御業――『魔法』を扱う少女は確かに存在した。


 推古天皇や紫式部、北条政子に新島八重。

 歴史に名を残す女傑の多くは、魔法少女であったという見方が強い。

 これらの裏付けについては、日本史の権威であり魔法少女研究の第一人者でもある中央大学名誉教授ゴトー・ヤマモト氏の『日本史における魔法少女(門川書店・1994)』を参考にされたし。


 しかし同時に、何人なにびとも『魔法少女』の実在を確認したことはない。

 己のマナコで見た事がある者は、有史以来ただの一人もいないとされる。

 何故なら「魔法少女はその正体が発覚すると、前頭葉が爆発して廃人と帰す」とされているからである。故に魔法少女は軽々にその姿を人前に晒さぬ。


 古来日本より――『魔法少女』は歴史の暗部。

 古来日本より――『ニンジャ』は闇夜の住人。


 よって『魔法少女=忍者である』という図式が成り立つのは『ジメイノ・リ自明の理』であった。


 これより綴りし伽話は、2127年に実在した、一人の『魔法少女ニンジャ』によるハートフル・バイオレンス・マジカルストーリーの一片である。


***


「炎上ー! エンジョーィ! のお城にでござる!!」


 信濃国小県ちいさがた『砥石城』。

 村上氏の領地であるこの城は今、松脂マツヤニ、パニックするヘッズ達でひしめき合っていた。

 『』を積載した『』が、突如として南の空より本丸の城壁に衝突し、夜の帳を引き裂いたのだ。


Wackクソ! 敵の姿が見えない!」

「火消しを急げー! ハリー出合えハリー出合え!」

「シキヨ様を守護らお守りせねば!」


 揃いのハッピ法被に身を包みし彼らは『†村上シキヨ親衛隊†』。

 北信濃ナンバー1アイドルと評される『シキヨ様』を応援し、貢ぎ、する従順な信奉者シンパ達である。


「ヘイッッ! そこで何をしておるか!!」


 At that momentその時である

 親衛隊の一人が、を『アラート発見』した。


フリーズ曲者!」

「ふぇぇ……」


 WTFワッザ!――What The F * ckしかし何としたことか

 ホールドアップして観念せし『闖入者アンノウン』は、煌々たる城の火の手に照らされしその『婦女子』は、


「……見ない顔だな。新参者ニューカマーか?」

「はいぃ……。シキヨ様に小間仕えする『女中』ですぅぅ……。城と列車が激突し、火の手が回ったので、着の身着のままカラダひとつで脱出・退散・逃走・奔逸・とんずらエスケープの有様でごぜます……」

「なんと! 『』は『災難ハードラック』であった……」


 どうやら敵兵ではなく同士モノノフのようだ。

 

 『推し被り』や『推し増し』をも許し、『推し変』があったとしても罷免せぬのがならいだ。

 そうした親衛隊『鉄血の掟』に従いて、学生服姿の女中に避難所の場所を教え案内インダクションした。


アンチエアー上空警戒! 敵のドローンが飛んで来るやもしれぬ!」

「装甲列車を飛ばして奇襲を仕掛けるとは……! 『魔法少女ニンジャ』のシワザに違いない!」

「周囲の守りを固めるのだ!」


「それでは皆様方、ワタクシはこれにて……」


 そして少女がオジギをし、その場を去ろうとした時。

 城内の庭園に敷き詰められたのせいか、あるいは生来のか。

 女中は『転倒ナナコロビ』した。


「あ痛!」

「ヘイヘイ大丈夫かい」

「あれは痛そうだ。アウチって感じだね」

「……ん? アレは……」


 地球と派手にキスをかますその女中は。

 起立ヤオキしようとするその少女の手元に。

 ポトリと『カケジク巻物』が落ちた。


あなやHoly shit!」


 咄嗟にそのカケジクを隠す少女。

 しかしもはや『時、既に時間切れ』。

 親衛隊のヘッズ達はサイリウムにも等しきペンライトを抜刀せしめた。


「へイッッ! 何ゆえお主がそのカケジクを所蔵しておるか!」

「それはシキヨ様の宝物トレジャーなりや!」

「さては貴様――!」


 【ケダモノシャウト咆哮城内ダンスホールのバイブスをアゲ↑る】。


 月夜に現れしは、キティ子猫ちゃんサイズの獅子ライオン

 


「チヨ! このウツケ未熟者め! 潜入もマトモにできんのか!」

「ふぇぇ……。ご堪忍を、師匠シッショー!」


「aieeeeeeeeeee! ケダモノが流暢な人語!」

妖怪アヤカシアヤシか!」

「やはりエネミー曲者であったか!」

「お待ちを! 争いたくない私は貴方達と!」

「兵士は常に戦争などしたくないのだ! しかし戦わねばならぬ時があるのだ!」

「そしてそれは『』ッ!!!」

「シキヨ様に仇なす者、捨て置けぬ!」


「チヨ、こうなれば是非も無し……。『変身』だ!!!」

はい!!!」


 にわかにザワめく。

 その隙を狙いて、女中のフリをしていた少女――『望月チヨ』は、天に手を伸ばした。


スッポン馬鹿め! いくら伸ばしても、月とアイドルと恋しいあの娘に手は届かんと知らぬ、の、かっ……!?」 


 チヨの手に桃色の光が集まる。

 その光は形を為し、ハート型の『コンパクト変身道具』へと至った。

 古来より化粧道具は、少女を別の存在に変貌させる。


「――『変身マジカルチェンジ』!!!」


 コンパクトを心臓へとインパクト叩き付けた


 するとチヨの全身が、その身を包みし制服が全て弾け飛び、刹那の全裸の後に『戦忍装束コスチューム』へと成り代わった。


「ハジメマシテこんにちは。武田ハルに仕えし魔法少女ニンジャ――『望月チヨa.k.aモッチー』と申します」

「「「「ハジメマシテ、こんにちは!!!!」」」」


 オジギは欠かせぬ。何故なら彼ら彼女らは日本人だから。


「やはり魔法少女であったか!」

「しかし愚かな! 魔法少女が正体を明かせば、前頭葉が暴発するはず!」

ノープロブレム問題ありませぬ。我が正体を知った者は――全員殺めるのですから」


 威圧。コワイ。

 しかしヘッズ兵士達は恐れをなしても、刃を振るうのだ。


「ですが如何なさいます。頭部への強い衝撃で今宵の記憶を全て差し出すのであれば、命までは……」

「コケオドシだ! この数には敵うまい!」

「……停戦要望で一度、警告で二度、そしてこれにて三顧の礼! ブッダの顔も三度まで、それを貴方達は無碍にした! 故にその命捨つる覚悟ありと、受け取ったァ!!」

コシャーク・ネード小癪なことを!」

ワッパの貧弱なフロウ口上など届かん!」

「我らは! どんな敵でも!」


「愚かな……。ならば――――――お命頂戴!!!キルユーベイベー!!!


 親衛隊のヘッズ達はペンライトセーバーを発光させる。

 ペンライトより伸びるレーザーは、厚さ10メートルの鉄扉すらも焼き切るほどの熱量を誇る。

 ヘッズ達がその刃を持ち上げるたびにブゥゥン、ブゥォンと大気を焦がし断つ。


 一太刀で五体バラバラ不満足となるその閃光ダンスフィーバーの中を、チヨは神速さながらイダテンにて掻い潜る。


「チヨ、マジカルクナイだ!」

「諾!!」


 心臓部位に輝くハート型のコンパクト。そこより取り出し逆手に持つるそれは、二本の『魔法苦無マジカルクナイ』。

 その刃の形状は、トランプカードのダイヤマークに酷似していた……◆


 師事する獅子の指示によって死線を駆け抜け、頚動脈を掻っ切る。


「ウボァー! オミゴト!!」


 ペンライトセーバーの刀身は受けず、その持ち手となる手首のみを斬り落とす。


「ウボァー! オミゴト!!」


 続けざまに足払いをし、態勢が崩れた者の胸部を刺突する。


「ウボァー! オミゴト!!」


 枯山水を血で染め上げる。

 炎天の城の眼下にて繰り広げられるスタンダップ殺戮ショーは、その断末魔のウィーン合唱は、冥府の死神達に向けた夜間出勤要請であった。


 チヨの――魔法少女ニンジャリョフ無双めいた強さに、親衛隊は次々と『卒業』していく。


 しかし。快進撃もここまで。


 死角から攻め、華奢な背中に突き立てたはずのクナイが、その一本がポッキー折れた。

 CLASH!


「WTF!?」


 反撃が迫る。瞬時に飛び退いたものの、左肩を僅かにかすめた。

 ペンライトセーバーの刃によって、肉の焦げる臭いが立ちこめる。

 激痛に顔をしかめつつ、クナイの通じなかった『敵』の姿を視認する。


「『変身マジカルチェンジ』!!!」

「!?」


 そこには。チヨの刃を防いだだけでなく、チヨと同じ掛け声を上げる『少女』がいた。


「ハジメマシテこんにちは。村上シキヨに仕えし魔法少女ニンジャ――『出浦リキヨa.k.a親衛隊長』と申します」

「ハジメマシテ、こんにちは!」


「あなや……! 隊長も魔法少女だったのか!?」

Incredible驚天動地!!」

「俺は『アリ』だと思うけどな」


 げにと驚きて。親衛隊を束ねる女隊長は、チヨと同じく魔法少女だったのだ。


「チヨ、魔法少女が互いに名乗りを上げた時、それはどちらかが死ぬまで終われぬデスレースの開幕を意味する! 心せよ!」

「ハイ! 師匠シッショー!』

「ふふ……。シキヨ様の支城に忍び込み、カケジク巻物を盗もうなどと、小賢しい武田のやり方ね……。やはり我らは『義』を重んじる上杉の側に付くべきか」

「これより貴女に付くのは戒名のみです、出浦さん!!」

「アタシをグレイブ鬼籍に入れたくば、この背面の守護を破ってみよ!」

「ワッザ……!?」


 戦場において相手に背を向けるは自殺行為。

 しかしリキヨが尊大かつ傲慢に見せた、『シキヨ様命』と刺繍されたアイドル法被の背には――


「我が『マジカル・バリア』の防御は、如何なる猛者も攻略不可能!!」


 ここで――読者諸君には、『マジカル・バリア』の解説をせねばなるまい。


 1902年にノーベル物理学賞を受賞したヘンドリック・ローレンツの名が由来となっている『ローレンツりょく』。電磁場内を動く荷電粒子の働きによって、爆風などを防ぐ電磁バリアの原理に用いられる。

 発生するこの電磁バリアによって爆風や衝撃波を相殺する技術は、2015年の段階において米ボーイング社が『反衝撃波システム』として特許を取得している。

 出浦リキヨの背に取り付けられた缶バッジ達も、その一つ一つが磁場を発生させバリアを展開する装置であった。

 しかしこの電磁バリアを用いる反衝撃波システムは、物理的な破片や実弾に対しては無力であった。

 その欠点を埋めるのが、魔法少女達の発する『マジカル・プリズム・プラズマ』であった。

 このマジカルパワーの科学的原理を説明をしようとすると、いかに聡明なる読者諸君であっても、知能が理解に及ばず脳髄液が沸騰してしまう可能性がスゴク高いので、安全上の観点から今回はあえて割愛する。

 とにかく出浦リキヨの背中からはメチャンコ強いバリアが出ているのだ。


 それを証明するように、チヨのマジカルクナイは文字通り『』。

 後ろから攻めてもマジカルバリアに防がれ、正面から挑んでも巧みなペンライトセーバーさばきで追い詰められる。


「この剣術……! ……!」

「あら、ご存知だったの?」

「……10年前、私の里を襲った魔法少女も貴女のような剣術を用い、背中に大量の缶バッジを付けていた……! そして私の両親と妹を……! 故郷の皆を……!」

「アタシは昔から魔法少女ニンジャだからねぇ。でもご免よ、過去の任務はいちいち覚えていないのさ。でもアンタは、ようやく復讐すべき仇を見つけたってわけだ!」

ッッ!!!」

ワィWhy……?」

「私はあの日、武田ハル様に拾われた。それより今日まで、彼女の影として生きてきた……。アイドル戦国乱世に終わりをもたらし……! もう誰も、ライブチケットの落選で悲しまなくて良いように! アイドルの彼氏バレや結婚報告で、日ノ本の民草が泣かなくて済むように! 天下において偶像は武田ハル様一人と、そんな『アイドル統一』を成し遂げるために!! あの人の大志を支えるため、私は戦うのですッッ!!!」

「ふっ……。アタシも、そんな『夢』の前に立ち塞がる障壁の一つってことかい! 家族を殺した憎い相手すらも!! 踏み台でしかないと!!!」

「『悲しみ』と『憎しみ』はランドセルと共に捨てて来たァ!! いざ――参らん!!!」


 しかし。パッション情熱だけでマジカルバリアは突破できない。

 そのため、肩に止まる師匠のライオンがレクチャー教え諭す。ちなみに彼はマスコット・フェアリーである。


「チヨ! こんな時は『マジカルロッド魔法錫杖』だ!」

「諾!!」


 ハートのコンパクトより出でし、一本のロッド

 その先端にはハート型の宝石が取り付けられており、トランプカードのハートマークに酷似していた……♥


「『マジカル・サイキックの術』!!」


 チヨがロッドを振るうと、砥石城に突き刺さっていた装甲列車が揺れ動く。

 燃え盛る列車はチヨの誘導により再び宙を舞い、リキヨの背中に向かって猛然とエクスプレス特別急行して行く。


「力技ね! しかしこの鉄壁の護りは誰にも……!」


 そのコトダマの通り、マジカルバリアは飛来する列車すらも受け止めた。


 そこを――背面にばかり気を取られたリキヨの頭部を、チヨはロッドの固い部分で殴りつけた。


「マジカル・アターック!!!」

「ウボァー! オミゴト!!!」


 

 本命はチヨの手に握られし『鈍器ロッド』であった。


 背面と正面への同時攻撃。

 それはまるで、啄木鳥キツツキが木を叩いて虫をおびき出し、反対側から得物を捕食するかの如く。

 これぞ、いにしえの武田信玄軍が第四次川中島の合戦で用いた軍略――そこからヒントを得た――『マジカル啄木鳥の戦法』である!!!


 もはやロッドなど要らぬ。

 トドメとばかりにチヨは拳を握り、リキヨの顔を殴りつけた。



「セィヤーーーッ!」



 SMAAAAAAAAAAAASH!!!



「ウボァー! そんな……まさか……! このアタシが、負け……!」


アンコールもう一回!!!」



 SMAAAAAAAAAAAASH!!!



「ウボァー! ……シキヨ、様……! 申し……訳……」


アンコールもう一回!!!」



 SMAAAAAAAAAAAASH!!!



「ウ、ぼァ……。……もう……ヤメ……ごめ……」


アンコールもう一回!!!」



 SMAAAAAAAAAAAASH!!!



「…………。………………ァ」









アンコォォォォォルもう一回!!!!!」



 SMAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAASH!!!!!!



「ウボァーッ!」


 そしてリキヨはチヨの鉄拳を受け、頭部が爆発して死んだ。


 その時である! 『』が『』を起こしたのだ!!


 リキヨの身体は桃色の光に包まれ、その光がビッグバンより眩い増大を見せると――光の中より、巨大なワニガメが生まれ出でた。


「カメ゛ェェェエエエエッッ!!!」


「隊長が魔法少女鰐亀ニンジャタートルに!」

「aieeeeeeeeeee! 特定危険生物!」

「スゴク・コワイ!」


 ワニガメの甲羅はその全てがマジカルバリアーで覆われており、腹の側は地面を向いている。

 まさに絶対強固の堅城。弱点や死角などどこにも無い。


「いかん! ヤツは暴発した自身のマジカルパワーに呑まれ、『魔女』へと成り果てた! このままではヤツの前頭葉だけでなく全身が核分裂反応を起こし、半径1200kmが消し飛んでしまう!!」

「ど、どうすれば……!? このままでは城の者共だけでなく、近隣の里の住人にまで被害が及びますよ師匠シッショー!」

「おヌシが何とかするのだ、チヨ! さもなくばおヌシも、あの魔法少女と同じ末路を辿る事になろう!」

「ふぇぇ……。そんな事言われましても!」


 その時である!

 魔法少女のスパコン並みの演算力が至らせたのか、あるいは生来の爆発力が呼び起こしたのか、チヨの脳内ニューロンは意外な冒険を生んだ!!


「親衛隊の皆さん! どうか私に、力を貸してください! 私の『ロッド』の先端に向けてペンライトセーバーの光を伸ばすのです! そして集めたエネルギーで、あのワニガメを倒します!!」


「こうなれば仕方ない! エマージェンシー火急の事態なのだから!」

「みんなー! 彼女に向かってペンライトを振れー!」

「がんばれ、魔法少女チヨちゃーん!!」


 呉越同舟! 大同団結!

 互いの生命の危機にあって、手を取り合うことができる事こそ、人類の美徳なのだ!!

 これぞ人間賛歌の物語なのである!!!


「マジカルゥ……! プラズマァああ……!!」


 チヨのロッドに収束するペンライトセーバー達の光!

 その総エネルギー量は宇宙創成の輝きと同じ!!

 己の夢と、人々の希望を『魔法』に乗せて!!!


 魔法少女ニンジャは――杖を振るう。


「ビィィィィィィィィィィィィィィィんムッッッ!!!!!」


 ――超究極火遁の術マジカルプラズマビーム


 その忍術はワニガメの口内をブチ抜き、腹の奥底まで届く。

 そして体内で弾けたチヨのマジカルパワーは、ごく小規模な爆発を起こすだけで済んだ。

 ワニガメ本体と、砥石城そのものと、親衛隊のヘッズ達を跡形も無く消滅させただけで、世界の平和は護られたのだ。


 神速の動きでその場を離脱したチヨは、胸元に忍ばせたカケジク巻物の存在感を確かめてから――後に『砥石崩れ』と呼ばれる歴史の舞台から、音も無くフェードアウト姿を消した。


「『ミッション潜入任務』……『コンプリート完了』」





まじかる☆ニンジャ ♪隠密魔法少女チヨちゃん♪

第一話 【マジカルマックス 怒りのデス・ロード】


閉幕

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