プロローグ
キィィー!
獣は高々と天に向かって吠えると、彼を見て、その大口を思いっきり開けた。鋭く、幾つも並んだ犬歯が災厄の光を放って煌々と輝いた。彼の息は一層荒くなった。恐怖に支配され、もはや、目の前を見ることしかできない。手と足を動かそうにも、幾つもの鋭い爪に抑えられてしまってはどうしようもなかった。彼は叫ぶことも忘れ、ただ、獣の口が大きく開くことを、そこに並んだ歯がいかに凶悪であるかを、ただ見ているしかなかった。
その口が目の前いっぱいに広がり、彼はとうとう、目的を達成することなく、その生涯に終わりを告げたのだ。
「お坊ちゃん。何をしてるんだ?」
蚕糸 雑駒 波鸞 @yokosimaojisan
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