完熟トマトの車の助手席
河咲愛乃
完熟トマト色の車の助手席
私には小さい頃から少しだけ霊感がある。この出来事が初めて私が霊感があると確信した時の出来事だ。
それは一瞬の出来事だった。でもそれは周りから見たときの話。私にはそのことがくっきりと残っていて、記憶の中に根を張っている。
頭から離れない一瞬だけど永遠の出来事。
これを読んだらあなたの記憶にも根付くかもしれない。
それは私がまだ小学生だった頃の出来事。ちょうど6年生で、夏休みに入る1日前だったと思う。私はいつも通り小学校で授業を受け、掃除をし、家に帰るときだった。私はいつも一緒に帰る友人に声をかけて帰った。
そしていつも通りの道を歩く。ちょうど4時ごろでみんな帰っている時間だった。まだ日がえんえんと私たちを照らしている時間だ。前の方にいる子供達、後ろにいる子供達。それぞれ友達と甲高い声を上げて話している。
普通に前を進んでいると横からなんかの音楽を大音量で鳴らしているよく会う車が近づいてきた。確か完熟トマトの赤のような真っ赤に染まった軽自動車だったと思う。思わず見てみるとまあ当たり前のように運転席に男の人が一人で運転していた。
『うるさいな』
その時はそうとしか思わなかった。
そのまま進むとすぐにいつもの交差点についた。東西南北どこを見ても大きな建物に囲まれれている、幽霊なんざ出てくる方がおかしいくらいの賑やかな大通りの交差点だった。
「あーまた今日も信号待ちか。もう嫌だな」
そこは私が4年生くらいのときから運がいいのか悪いのか私が通ろうとすると必ず点滅し始めあっという間に赤になる。まるでそこで待ってろとでも言うように。
「うん、まただね」
友人も言う。その声は呆れたようなだるいようなまあ簡単に言うと『はあ』
とため息をつきたくなるような声だった。
すると横からさっきの車が走ってきた。瞬間ぞわっと寒気がし、見てみると
そこには運転手ともう一人、助手席にこっちを見る男の人がいた。
多分30、40くらいの中年の男性だろう。普通の白いシャツを着ていた。下は車の座っているせいで見えなかった。
太陽の光を反射した車体の中でその人は目を大きく見開き睨んでいた。妬むような恨むようなそんな険し目をしていた。何か恨みがあるように、今すぐにでも殺して連れて行きたいというように。でもできないから精一杯睨む。できない代わりに目で睨むことで殺してやる。本当に殺しそうな目をしている。そんな恐ろしい目をしていた。あまりの怖さに身震いした。
その車が目の前を通り過ぎてから1分くらい経った。
「ねえ、あの車助手席にもう一人乗ってなかった?」
なんとなく聞いてはいけないような気がして、言わなかったが言わずにはいられなくなり、恐る恐る聞いてみた。
「あの車って?」
友人は何も気づいていないかのように答えた。
「さっきの音楽ガンガン鳴らしてたやつ」
「ああ、あの車なら見てたけどでも運転席に一人しか乗ってなかったよ。後ろにいたとしても助手席にはいなかった」
友人もその車を見ていたようだが、見えていなかったらしい。
あんなのを見て忘れる方がおかしい。
「そ、そっか」
「どうかした?」
「ううん、なんでもない。ただの見間違いだと思う」
「そっか、そうだよね」
そう私は友人に言ったがどうもあれが見間違いだとは考えにくい。あの目は本物だと思う。それにあの場面はしっかりと切り取られているから。
なんでこんなに覚えているなだろうと思う人もいるかもしれない。
でも私にははっきりと見えたのだ。通り過ぎるわずか一瞬の間だが、その一部だけ切り取られたように私の記憶には残っている。今考えるとあの男の人は私ではなく運転席側にいる男性を睨んでいたのかもしれない。
きっと死んだ後でも恨み続ける理由があるのだろう。
その出来事があってからその交差点で信号待ちになることは少なくなった。
もうやるべきことは果たしたと言っているかのように。
あの車がどこに行ったのか、その後どうなったのか。その人は無事なのか。
何一つ知らない。なんたって見たのあの一度きりなのだから。
まあ、知らない車に何度も会うこと自体ないだろう。
でもあの記憶は真実です。
こんな体験あったらもしかしたら私と同じものを見たのかもしれませんね。
完熟トマトの車の助手席 河咲愛乃 @sakura-1231
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