エピローグ
エピローグ
──ふと目を覚ました。
部屋の電気は消されていてはっきりとは見えないが、それでも微かに見える天井は見慣れたもので、すぐにここが自分の部屋だと理解する。
少し身じろぎすると、首回りや額の辺りにベタつく感覚があった。どうやら全身汗びっしょり状態らしい。
流石にこのままの状態でいるのは不快なので、ベッドから抜け出して窓を開けた。涼しい夜風が汗を攫いながら吹き抜けていく。遠くの方から鈴虫の鳴き声が聞こえてきて、秋の訪れを感じた。
「……またあの夢か」
小さく吐き出した声は、誰に届くでもなく、星の瞬く空へと消えていく。
つい先ほどまで夢を見ていた。もう何度目かも分からないほど見続けてきた夢だった。目を閉じれば、いつまでも瞼の裏に鮮明に焼き付いている夢と同じ光景が広がる。忘れたくても忘れられない。忘れてはいけない光景。視界いっぱいに広がる禍々しいほどの赤。
思わず自嘲の笑いが零れる。いつまでも過去に縛り付けられているという事は自分が一番よく分かっている。
──復讐なんて馬鹿な事を。
あの人がボソリとそう呟くのを聞いて、心がざわついた。多分あの人に悪意は無かったのだろう。それでも、自分自身を否定されたような気がした。だが、止まるつもりはない。道を外れたあの日からもう引き返す事は出来ない。
知らないままの方がいい事もある。確かにその通りだ。あの人にも、その周りの人にも、この醜い心の内を知られてはいけない。巻き込んではいけない。これは、自分だけで決着させるべき事件だ。
「……いつか、必ず」
僕は自分に言い聞かせるように呟いて、窓を閉めた。
透明探偵 藍澤 廉 @aizawa_ren
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