0 少女

 気がつくと、鏡が割れている……。

 少女は鈍器で鏡を割ってしまったのか。

 瞳には熱い涙。赤くはれた唇には血がにじんでいる。

 失われたものはもう戻らない。けれど、再びはぐくむことができる。

 つらい過去のこと、子供を失ったこと、新しい恋人とのこと。走馬燈そうまとうのように駆け巡る。

 鏡の中に作り上げた物語は、割れた破片と一緒に足元に飛び散っている。

 割れた鏡の中に少女は見る。

 取り戻した双子を抱く女。床に倒れた一人の青年。復讐を遂げてこの世を去った少女。

 空想の中で彼女は幾つも人格を作ってきた。傷つけられ痛めつけられる少女と、奪われ取り戻す少年。彼らを眺め、見守ってきた小鳥は自分。二人から守られながら、苦痛から逃げた。

 けれど、今度は立ち向かう。逆境に、運命に。

 自らの命を脅かすしき連鎖は断ち切らないといけない。

 手に握った灰皿が血に濡れている。

 ママの叫ぶ声、男の少女を呼ぶ声がする。

 少女は意識の扉のまえに立つ。この閉ざされた暗い部屋からでていかねば。

 ようやく決意し、目をひらいた。

 パパは額から血を流し、驚愕きょうがくの目で少女を見つめていた。

「でていけ! このあばずれ! この家からでていけ!」

 少女はパパの怒鳴り声に足がすくむ。少女の背を恋人が支えた。

「いこう、わたしたちの未来のために」

 少女は両親に背を向け、忌まわしい過去に彩られた家の外へ、ようやくでていくことができた。

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月の光 太陽の闇 藍上央理 @aiueourioxo

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