第8話
第7章
〔この世界の終わり〕
「それじゃ、始めるとしようか、精霊戦争を…。」
氷河の言葉に、訳がわからない友生は、ただ立ちつくしていた。
「何の事だ、氷河!精霊って何だ!君達は一体何者なんだ。」
「いいだろう、教えやるよ。どうせ、もうすぐお前達も居なくなるんだからな。」
氷河の体が、フワリと宙に浮き、そして語り始めた。
「もうすぐ、この世界は終わる。正確には、この世界の生物は、すべて居なくなる。」
「な、なんだって!?」
「10年後には、暗黒に覆われ、草や木はもちろん、水さえもすべて枯れ、大地は死滅し、すべての生物は居なくなる。」
「なぜ、そんな事がわかる?お前は一体…」
「見たんだよ!俺はこの目で!!
俺は10年後の世界から来たんだ!
これは神の裁きなんだ。人間に対するな!
神はずっと見てきた。人間の進化を、しかし、何十年、何百年、何千年経っても人間は変わらない。
無くならない戦争、殺戮、止まらない自然破壊。
まるで自分達が、この星の頂点に君臨してるかのような振る舞い。
そんな人間達に、この星は自ら排除を始めた。
貴様も、知ってるだろう、世界中で起こってる異常気象を。
あれは、この星からの警告だ。考えを改めない人間達にな…
しかし、これ以上異常気象や天変地異が続くと、この星自体が壊れてしまう。
この星が無くなると言う事は、俺達、神や精霊も居なくなるって事だからな。
現に、この星の歪みは俺達の世界にも影響が出始めてる。
だから、神々は話し合い、この星を守る為に1度リセットすることに決めた。
ただ、大地の神である、貴様の母親「上地 陸奥美」と、この女の父親、空の神の1人、カミナリ族の「神成 雷造」は、最後まで反対していたがな。」
「何んだって!?………僕の母さんと憂稀の親父さんが、神様?!…………」
「ああ、そうだ。わからないのも無理ない。
俺達、精霊は16才になると覚醒し、自分の守るべき神の元に集まる。
そして、そのまま人間界を監視しながら生きて行く。
しかし、神は18才になるまで覚醒はしない。
そして、この女は神の中でも特別な存在なんだよ。
さっきも言ったが、この星の歪みは俺達の世界にも影響を及ぼした。
元々、空の神々は男が、地上の神々は女がなっていた。
だが、この時代は神成家に女の子が、上地家に男の子が生まれてしまった。
これが、どういうことか、貴様にはわかるまい!
空の神や精霊は力のバランスで保たれてる、それがもし、精霊の誰かがこの女と交わり、子供が出来れば、そいつは2つの力を持ち、空の一族を支配出来るかもしれない。
それを恐れた、空の精霊達はこの女を隔離した。
しかし10年後、彼女は地上のすべてを失ったショックと、自分の子供がこの星を支配するかもしれない悲しみから、自ら命を断った…」
「え?!憂稀が死ぬ!?
「ああ…、ただ、死ぬ前に、自分の子種をこの時代に飛ばしてな。」
「すぐに俺も後を追ったが、場所までは特定出来なかった。
まさか、自分と1番相性の悪い、大地の神に託したとは…。」
「大地の神…?母さんの事か!」
「ああ、そうだ。つまりお前は、この女の子供なんだよ。」
「ぼ、僕が憂稀の子供…?」
友生はボー然と立ちすくしていた。
「しかも、やっかいな事に、お前は大地の神でもある。カミナリの力と大地の力を持った、ハイブリットな神になっちまうんだよ。
だから、覚醒するまえに、くたばってもらう!
しかし、貴様を見つけるのは苦労したぜ、幸い俺の仲間が貴様を見つけて、ずっと監視してたがな。
「お前の仲間?」
「ああ、風の精霊「風見 翔だ。あいつにずっと貴様を見張らせておいた。
なにせ貴様は2つの力を合わせ持つハイブリットだからな、しかし、その心配もなさそうだ。1番相性が悪い組み合わせだから、貴様はまともに運動も出来ない体みたいだな。」
「え!?翔が、お前達の仲間? そ、そんな…」
友生は、がっくりと肩を落とした。
「さぁ、おしゃべりはこれくらいにして、とっととくたばれ!
ハァ!!!!!」
氷河から放たれた、氷の刃が友生を襲う。
「危ない!!」
間一髪で緑が、友生を押し倒した。
「ちっ、邪魔しやがって!」
「あんたの思い通りにはさせない!これでも喰らえ!!
ツリーブレイド!!!」
地面から生えた木が、刃のように鋭く尖って、氷河に向かった。
「おっと、君達の相手は、僕がしよう。」
光は両手を上にあげ、緑に振り下ろした。
「サンライズシャワー!!」
凄まじい太陽光線が、木の刃を焼き、そのまま緑と香に降り注いだ。
「きゃ~!!!あ、暑い…」
「あ、、暑いよ…暑い…」
2人共、干からびそうだ。
その時、
「ウォーターシャワー!!」
清美が2人に、水のシャワーを浴びせた。
水分を吸収し、元に戻った2人。
「助かったわ、ありがとう清美。
」
「清美ちゃん、ホントにありがとう。」
「まだ、お礼を言うのは早いわ、あいつを倒してからね。」
清美は光を睨んで言った。
「あらら、せっかく可愛いお婆さんが、出来ると思ったのに。」
「うるさい!!お婆さんになんかさせるもんですか!!」
「ウォータースプラッシュ!!」
清美の手から、凄まじい勢いの水が吹き出した。
「おお~怖い、サンライズシャワー!!」
光の手から放たれた光は、みるみる清美の水を蒸発させ、そのまま清美に降り注いだ。
「キャア~~!!あ、あ、あ…、」
清美の体が沸騰し始めた。
「ザ、ツリーシャドウ!!」
みるみる地面から木が生え、光を遮り清美の前に陰が出来た。
「ツギハ、ミーが相手だ。」
レイが口から、息を拭いた。
「ミストブレス!」
口から出た息は、真っ白になり、辺り一面を覆った。
「何も…見えない…」
緑が立ちすくしていると、シュン!シュ!シュン!
何物かが、体の周りをすり抜けて行く。
そして、すり抜ける瞬間、体中に痛みが走った。
「あ!痛っ! いっ!痛い!」
しばらくすると霧が晴れ、そこには服が切り裂かれ、体中がキズだらけの緑が立っていた。
「どうした、もう降参か?」
「そんなわけないだろ、行くぞ!ヤ~~!!」
緑は下着姿のまま、レイに向かって行った。
しかし、いくら切り付けても、レイの体は煙りのように手応えがない。
「アハハハ、こっちこっち。」
レイの体が、あっちこっちに現れる。
緑は縦横無尽に走り回る。
その姿をみた友生は、
「み、緑姉!下着、下着が見えてるよ!」
「大丈夫だ、友生。これは見せパン、見せブラだ!」
「い、いや、そういう意味じゃなく…。目のやり場に困るというか…」
「そうか、わかった。それじゃ、ツリーファッション!!」
緑が叫ぶと、木々の葉っぱが渦を巻き、緑の体を包み込んだ。
そして渦が収まり、緑の体が現れた。
その姿は、葉っぱが下着の所だけに付き、まるで裸に見える。
「み、緑姉…」
友生は呆気にとられた。
「さあ、仕切なおしよ!」
「イイネ~、セクシーガール。」
その頃、光の相手は、スーがしていた。
スーは緑の姿を見つけると、
「オー、ミドリセクシーネ、ヨーシワタシモ。」
そういうと、スーは制服を脱いだ。
「ちょ、ちょっとスーまで、何やってんの!」
友生は、もうどうしていいかわからない。
スーが制服を脱ぐと、その下には、レスリングのユニフォームを着ていた。
「ワタシハ、チカラモチナンデ~ス。」
そう言うと、目の前にあった、自分よりはるかに大きな岩を持ち上げ、光に向かって投げつけた。
その瞬間、光はヒラリと空に浮かび上がり岩を避けた。
「おっと、危ない、危ない。」
「トブナンテ、ヒキョウデス、オリテキナサ~イ。」
スーは手当たり次第に、岩を投げつける。
「いつまでモタモタしてるんだ!さっさと片付けろ!」
シビレを切らした氷河が、怒鳴り付けた。
「まずは、死にぞこないのあいつからだ。」
氷河は、木の陰に倒れている清美を指差した。
「わかったよ、サンライズシャワー!」
光の熱線が木を焼き尽くした。
「ブリザードロック!」
冬季の手から、吹雪が舞い清美の体は真っ白に包まれた。
「アイスブレイズ!!!」
氷河は無数の氷の刃を清美に突き立てた。
「水川さ~ん!!!」
「清美~!!」
「キヨミサーン!!」
清美は、もう虫の息だ。
「とどめだ!一斉攻撃!!」
「ご、ごめん、友生……もう…」
氷河の刃が、清美に向かって飛び、冬季の吹雪がその刃を取り囲む、そして光の凄まじい熱線が、氷の刃と吹雪を包み込んだ。
そして、その光は雪を溶かし、そのまま氷も溶かし、ちょうどいい湯加減になった水が、清美の体に浴びせられた。
「キャア~!!!!!ア~!?ア?あれ??気持ちいい…?」
ちょうどいい湯加減の水を浴びた清美は、温泉に入ったように、みるみる元気になり、さらにパワーアップしていた。
「ちっ、何やってんだ、光!!お前はもいい、あっち行ってろ!」
「ちぇ、なんだよエラソーに…」
光は、ぶつぶつと言いながら、離れて行った。
みんなの戦ってる姿を見て、何も出来ない友生は、自分の不甲斐なさに腹が立っていた。
「くそ!なんで僕はこんなに体が弱いんだ…
僕に出来る事はないのか…」
友生は目を閉じ、大きく息を吸い込んだ。
そして
「憂~~~稀~~~~!!!!!
ゆ~~う~~き~~!!!!!」
友生は精一杯の声を出した。
「今の僕に出来るのは、これだけだ、たとえ声が出なくなっても、叫び続けてやる。」
「憂稀~~~~~!!!
憂稀~~~~~~!!!!」
そんな友生に、気付いた氷河は、
「無駄だ、絶対零度の冷凍睡眠だ。俺以外の奴が目覚めさせる事は出来ない。」
「憂稀~~!!憂稀~~~!!!」
友生はやめようとしない。
その時、憂稀は深い眠りの中で、夢を見ていた。
小さい頃の自分と友生、泣いたり、笑ったり、ケンカしたり、夢の中で小さな友生は何回も自分の名前を呼んでいた。
そして、あの小さな約束も夢の中に出てきた。
その時、憂稀の目から涙がこぼれた。
唇がかすかに動く…
「と…も………き……」
「憂稀!!!」
「な、なんだと!!!」
憂稀は、ゆっくりと目を開け、友生を見た。
「友生!!友生!!!」
「憂稀!憂稀~!!」
「離して!氷河君!!離して!」
腕の中で、暴れる憂稀。
「静かにしろ!いっ!!」
憂稀は、氷河の腕に噛み付いた。
氷河の力が弱くなった瞬間、憂稀は腕を振りほどき、地面に向かって落ちて行った。
「憂稀~~~!」
落ちて行く先は、友生が腕を広げて立っている。
「友生~~~!!」
2人の距離が近づき、お互いが手を伸ばす。
そして、手と手が触れ合った瞬間、
「ガシッ!!」
憂稀の足に、氷河の氷が絡み付いた。
そして、そのまま空へと舞上げた。
「友生~!友生~!!」
「憂稀!憂稀~~!!」
「嫌ぁ~!離して!!友生~~!友生~!!」
離れて行く、憂稀の目からは大粒の涙が、こぼれ落ちて行った。
その1粒の涙が、友生の手の平に落ちた。
次の瞬間、手にした涙が、凄まじい光を放ち、あっという間に友生を包み込んだ。
すると、友生の体はひとまわり大きくなり、髪はマグマのように赤く逆立ち、体中は金色に輝いている。
「友生?」
「上地君?」
「上地君…」
「オートモキ、カッコイイデス。」
覚醒した友生は、右手を伸ばし、
「もう、お前達の好きにはさせない。」
友生の目は、髪の毛同様真っ赤にそまっていた。
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