第5話
第4章
〔図書室〕
始業式も終わり、放課後になった。
久しぶりに会った、スーと友生と憂稀は、話を弾ませていた。
「しかし、僕より小さかったスーが、こんなに成長するなんて、ビックリしたよ。
僕より背が高くなったんじゃない?」
「ホントよ、一体何を食べたら、そんなに大きくなるのよ。」
憂稀の視線は、もはや一点しか見えていない。
「ベツニナニモシテマセ~ン。
マイニチフツウニ、肉タベテ、ネテ、肉タベテ、ネテヲ、クリカエシテマシタ。」
「はぁ~、日本でそれやると、絶対太っちゃう…アメリカ人が、羨ましいわ…」
憂稀は、ため息混じりに言った。
「そんな事より、スーはどこに住むの?」
落ち込む憂稀の頭を撫でながら、友生はスーに聞いた。
「オヤ?ユウキ、キイテマセンカ~?
ワタシ、ユウキノイエニスミマ~ス。」
「え~~~~~っ!」
「え~~~~~~っ!!」
2人共、椅子から転げ落ちそうな程驚いた。
「母さん、そんなこと一言も言ってなかったけどな。」
「私も、何も聞いてない。」
その頃、上地家では友生の母親がニコニコしながら、夕食の準備をしていた。
「今頃、友生と憂ちゃん、ビックリしてるだろうなぁ。ウフフ。
さて、歓迎パーティーの準備もしなくちゃ。」
ノリノリの母親であった。
「ちょ、ちょっと待って、じゃあ友生と一緒に暮らすって事?」
「オー、ソノトウリデ~ス。」
スーは友生の腕を抱き寄せながら言った。
「大丈夫だよ、憂稀。空いてる部屋があるから、
スーにはそこに、住んで貰うから。」
「ワタ~シ、トモキトオナジヘヤがイイデ~ス。
ソシテ、ムカシミタイニ、イッショ二ネマショウ。」
「ダメよ、スー!絶対ダメ!!
あ~、もう!私も、友生の家に住む!!」
「無茶言うなよ、憂稀。
憂稀も、たまに泊まりにくればいいじゃん。
母さんも、早くスーに会いたくて、ウズウズしてるかもしれないから、そろそろ帰ろう。」
友生が、カバンをもって、席を立とうとすると、
「チョット、マッテクダサ~イ。
ワタシ、カエルマエニ、ホケンシツイキタイデス。」
「え?保健室?
どこか、体の具合でも悪いの?」
憂稀が心配そうに尋ねる
「イエ、ニホンノコウコウデハ、スキナオトコノコト、
イッショ二ホケンシツノベッドデ、ネルキマリガ、アルソウデス。」
「いや、いや、無いから…」
友生と憂稀が呆れたように、真顔で否定する。」
「アト、タイイクカンノ、ジュンビシツノ、マットヤ、トビバコノウエデ、アイヲタシカメアイマ~ス」
「………………」
友生と憂稀の目が、点になってる。
「チガウンデスカ?ジャア、オクジョウノ、キュウスイトウノ、アイダハ?」
「…うちの学校、給水塔無いから…」
「エ~?ジャア、ワタシハドコデ、トモキトHシタライインデスカ?」
「ちょ、ちょっと!しなくていいわよ!そんなもん!!
あんた、何しに日本に来たのよ!」
憂稀の顔は、今にも破裂しそうな程、真っ赤だ。
「オー、ユウキ、コワイデース。マルデアカオニデース。」
「何ですって~!!」
憂稀の顔が、ますます赤くなる。
頭からツノが生えて来そうな勢いだ。
「全く、誰だよ。偏った情報教えたの……」
2人の間で、呆れ返っていた、友生だった。
賑やかな教室の反対側には、清美と香の姿があった。
「じゃあ、私は生徒会室に行くけど、香はどうする?」
「うん、いつものように、図書室で待ってる。」
「わかった。いつもごめんね、待たせちゃって。」
「ううん、大丈夫だよ。私、本好きだし、それにね…」
「それに…?」
「なんでもない、なんでもない。」
香は少し赤くなり、
「じゃあ、図書室行ってくる。」
香は一目散に図書室に走っていった。
清美が生徒会室に着いた頃、香は図書室の前で、大きく深呼吸していた。
「ハァ~、フゥ~…」
そして、ゆっくりと図書室のドアを開けた。
「おじゃましま~す…。」
香は、周りに聞こえるか、聞こえないぐらいの小さな声で挨拶をしながら部屋に入ると、グルリと見渡し、1人の男子に目を止めた。
「いた…。」
香は適当な本を取ると、彼から少し離れた所に空いてる席を見つけ、
しかし、しっかりと彼の姿が見える場所を確保した。
香は本を見ては、彼の姿を見つめ、本を見ては、彼の姿を見つめていた。
彼の名前は「氷河 透」
放課後になると、いつも図書室に来て、1人で本を読んでいる。
背が高く、眼鏡がトレードマークだが、あまり人と話してる姿は見たことがない。
香の視線に気付くのか、たまに香と目が合う事があった。
香は彼の本を読んでる姿が好きで、最近では本を見てる時間より、彼を見てる時間の方が、長くなっていた。
本を見てる彼の目は、名前の通り、眼鏡の奥で優しく透き通るように輝いていた。
そんな2人の様子を本棚の陰から見てる人物がいた。
草村 育枝だ。
育枝はいつものように、ニヤニヤしながら、ノートを片手に何かを書いていた。
小1時間ぐらい経った頃、図書室に清美が入ってきた。
清美は香を見つけると、
「お待たせ、香、待った?」
「ううん、いつものことだもん。」
「じゃあ、帰ろうか。」
「う、うん…」
香は、チラッと氷河の方を見た。まだ彼を見ていたかったが、諦めて帰ろうとした。
そんな香の視線の先に、
氷河の姿があることに気が付いた清美は、
「ハハ~ン、そういうことか。」
何かに気付いた清美は、氷河に近づいて行った。
「こんにちは、氷河君。熱心ね、勉強してるの?」
「水川 清美か。」
実はこの2人、知り合いだった。
クラスは違うが、毎回テストのトップを争ってる、清美と翔の下には、必ずこの氷河がいたのだ。
そして氷河は、おもむろに立ち上がり、180はあろうかという身長で、
清美を見下ろしながら、
「いつまでも、お前らの天下だと思うなよ。
次は必ず、倒す!」
その時の氷河の目は、本を読んでいた時の、優しい目ではなかった。
冷たく、鋭く、まるで氷のような視線だった。
そして、清美と香は、この時、氷河が言った言葉の本当の意味を、まだ知らないでいた…
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