埋める事での証明

「おーはよー」

「おはよ」


翌朝の学校で、頬を晴らして、其処にガーゼを付けた彼女が元気に挨拶をしてきた。

案の定、頬は大分腫れている。おたふく風邪でも引いたのかという状態だ。


「いたそうだね」

「痛いよ!滅茶苦茶痛いよ!?」


殴った本人だけど、何となくそう言ってしまった。だって本当に痛そうなんだもん。

まあ、言う通り、きっと痛いのだと思う。

私にあいさつした後も、クラスメイトに心配されていた。

理由を問われても、ちょっとぶつけて以外の事は一切言わなかった。


「・・・ありがとう」


こっちに戻って来て彼女はそう言った。けど知らない。礼を言われるようなことをした覚えは無い。

私は私の我を通しただけだ。私がやりたいようにしただけだ。

むしろ、いつものままでいてくれる事の方がありがとう、だ


「なにが?」

「なんでしょうねー」


だからこれでいい。お互いに適当な会話で、適当に流す。

いつも通りの、私達で良いんだ。


「よ、よう、おはよう」


後ろから、久々にこの時間に聞く声が挨拶を飛ばしてきた。

ちゃんと登校してきた彼氏が居た。どうやらこいつも立ち直ったようだ。

まあ、今日来なかったらもう一回ぶん殴りに行ったけど。


「おう、引き籠り。もう良いのか?」

「あ、ああ。すまん。それと、お前にも言わなきゃいけない事が有る」


彼は、私に少し謝った後、彼女に真剣な顔で言う。

彼女もその真剣さを察知したのか、少し身構えた。


「俺、こいつの事が好きだ。だから、すまない。俺はお前に応える事ができない」


思わず目が点になった。親友も同じくである。

ああそうか、こいつ結局、事情全部把握出来てないんだった。そうかこいつの脳内ではそうなってたのか。


親友は正気に戻ると彼に急所攻撃をする。いつかの焼き直しの様に股間を抑えて蹲る彼氏。


「だーれがあんたなんか!ばっかじゃないの!?」


そう吐き捨てて、彼女は席に座った。うん、通常運転だな。









「あー、そういう事だったのか」


放課後、全ての事情を彼にも話した。

彼はそれを聞いても彼女を責めなかった。いやむしろ、それなら余計に自分が悪いといった。

彼女の言う通り、私を裏切ったのだと。


勿論彼女を抱いたと聞いた時は、とても辛かった。

けど、そのおかげで解ったから、もうそれは良い。私にとってこの出来事は、辛かったけどいい経験になった。


好きな人を持つという事の気持ちのよさと、気分の悪さを理解できた。

どちらも、今回の事が無ければ、もっと大きな事が起こるまで気が付かなかったかもしれない。

いや、かもしれないじゃない。きっと気が付かなかった。


だからまた謝りだした彼の胸ぐらを掴んで、踵を上げる。

15センチの差を埋めるために。

お前が好きだと、示すために。

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私と彼女と彼と 四つ目 @yotume

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