親友

「ねえ、どうしたの、こんな所に呼び出して」


深夜12時、私は少し話がしたいと、近くの公園に友人を呼びだした。

あいつの、彼氏の事を事を話すために。


「話したい事って何?」

「・・・なんであいつに手を出した」


私の言葉を予想してたのか、一切の表情を変えなかった。


「そっか、話したんだ、あいつ」


それどころか、何処か開き直ったようにそう言って来た。


「何で、って私は聞いてるんだ」


こぶしを握り締めながら、友人に問う。友人だと思いたいからこそ、問う。

なぜ、なんでお前が。


「・・・ずっと嫌いだったから」

「・・・え?」


予想外の答えに、確かに自分に有った怒りも飛んで、呆けてしまった。

私の事が嫌い?

ずっと嫌い?

けど、目の前の人物が次に紡いだ言葉は、そんな物よりもっと衝撃的だった。


「私の友達を、親友を、横から取って行った。私の方が先なのに!私の方が先にあなたの事を好きになったのに!あんな奴、あんな、ほかの女に少し迫られて手を出すような奴、大っ嫌い!!」


嫌いと言った相手は彼氏の事。そして好きと言った相手は私の事だった。

そんな素振り、今まで見た事ない。いつも適当な感じで絡んできてるこいつしか見た事ない。

そんな想いを持ってたなんて、知らなかった。


「貴女だって見下げ果てたんじゃないの?あいつは彼女が居ながら、彼女の親友に手を出す様な男よ?」


ああそうだな。あいつは誘惑に負けた。そしてその誘惑した人間から同じことを言われた。

そして止めに、お前は彼女を裏切ったのだと言われたんだ。

その罪悪感に、あいつは耐えられなくなった。平凡な男だ。普通の男だ。誘惑に勝てなかったのも解るし、私を見れなくなったのも良く解る。

だからと言って、今後も許すかは別の話だけども。

けど、それでも―――――。


「それでも、私は、あいつが好きだ」


そう、まっすぐに伝える。目を見て、まっすぐに

私の真剣な目を見て、彼女は泣き崩れた。

ただ振られたことに、拒絶されたことに泣いたんじゃない。


こいつもきっと、辛かったんだ。

こいつのやった事は、彼に対する嫌がらせだけじゃない。私に対する裏切りでも有った。

親友への、好きな相手を傷つけると解っている行為。


少し前なら解らなかったけど、今なら分かるよ。辛かったんだろうなって。

あいつを好きだって、理解できた今なら、お前の辛さが少し解るよ。

だから許すよ。今まで通り、前と同じようになろう。


だからそのために、きっちりしめるとこはしめておく。


「歯を、食いしばれ」


流石親友、泣きがならも、私が何をしたいのか理解したらしく、思いっきり歯を食いしばる。

私はそんな彼女の顔を、女の顔をぶん殴る。

加減なしで思いっきり。


彼女はふっとび、後ろに倒れ、口の中を切ったんだろう、血を流しながらのっそりと起き上がる。

その顔は、私に何を求めていたのだろうかは解りかねる表情だった。

だから私はいつも通りに振る舞う。


「ったく、あんまり馬鹿やってんじゃないよ」


彼女に手を貸して、立たせる。

私の態度に呆けた彼女を放置して、ハンカチを公園の水道で濡らし、殴った頬に当てる。

我ながら酷い。これは腫れるぞ。


「腫れると思うから。病院に行くならうまい事言い訳考えてね」

「・・・なんで?」

「何でって、そりゃ殴ったのばれたら、私いろいろ不味いじゃん」

「ち、ちが」

「だからちゃんと考えといてよ。ね?」


勿論、彼女のなんでが何に対する何でなのかなんて、すぐに解った。

けど、解らない振りをした。

だって私達は友達なのだから。親友の間違いを許すのは、当たり前の事だから。


「んじゃ、あたし帰るから」


背を向けて、顔を見ずに手を振って家に帰る。

後は、彼女しだいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る