4-*Chapter01-1*

*Chapter01-1*


事故から10年。

大破した研究施設は封鎖され、目新しい情報が尽きたマスコミはとうの昔に手を引いていた。

何年か前に物好きな三流誌がオカルト気味に取り上げもしたが、それほど面白味もなかったのか、続報は作られないままだ。


今日もその研究施設は、悲惨な、退廃した姿を、繁茂した草木の奥深くにひっそりと横たえているはずだ。

端末から立ち上げたディスプレイに映された、数日前に撮られた写真を流し見て、ハリアーはわずかだけあの日に思いを馳せるかのように目を閉じた。


ハリアー・レジアス。

あの日あの場所でエディックス・アヴァンシア教授を見た最後の人物。


「「あれ」はうまくやってくれると思うか?」

自問して、ふ、と笑う。これは大きな賭けだ。

「幼いが、あれは賢い」


椅子から立ち上がる。カテドラルを模した長窓から、地面を見下ろした。

数階下の道路に今しがた建物から出ていった小さな姿が見える。長いコートがふらふらと揺れるのは本が重いからか。


留学生を受け入れているこのグランビア大学では様々な人種の学生と出会うが、そのなかでもチェルトの真っ直ぐな黒髪と白い肌は珍しかった。金髪でがっしりとした体格をしていたエディックスとは似ても似つかない。だが、ハリアーは気付いていた。

瞳が似ている。

明るい緑色。目元の印象は異なるが、リーフグリーンのきらめきがよく似ていた。

あの瞳がこちらを見返してくるうちは、ハリアーは事故を忘れられない。


「賭けようじゃないか。エディックス・アヴァンシアの息子に」

呟いて、ハリアーは窓を離れた。

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ロストフォース 零 Lost Force ZERO 天満 @10asahi

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