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*chapter01-1*
あの日あの場所で。
彼が残した言葉がある。
***
建物に警告音が鳴り響く。「この施設は何が起こるかわからないからね、まぁ起こらない方がいいんだけどねハハハ」などと言って、この施設を作った彼が設置したものだ。
彼はエディと呼ばれたがっていたが、研究員は一様にアヴァンシア教授、と呼んでいた。気さくな性格でよく笑う彼だったが、研究へ対する熱意が常軌を逸していたせいで、研究員からは距離をとられているようだった。
その日、彼、エディックス・アヴァンシア教授は施設の最奥にある部屋にいた。研究員はすべて避難し、誰も残ってはいなかった。
「エディックス先生!一体貴方は、何をしているのですか!?」
部屋に溢れる光にぞっとした。眩しさに、目を細める。
光は無数の文字と図形だった。
古い石板が組み立てられ、部屋の中にまるで祭壇のような石の建造物が出来上がっている。その石の表面を覆う古代文字がすべて発光していた。
それは科学技術ではない。彼はそれを「マナプログラム」と呼び、実用化へ向けて実験を繰り返していた。
物質の存在エネルギー「マナ」にアクセスし「事象」を引き起こすプログラム。
それは失われた技術だった――ついこの間までは。
そう、今、このマナプログラムで満たされた部屋の中にたたずむ彼が古代の遺跡からよみがえらせ、世に送り出すまでは。
文字列は空中に浮かび上がり、星座のようにまたたき、オーロラのように揺らめいて部屋を満たしていた。
美しく、不気味な。
例えば神の世界があるとしたら、このようなものではないかとすら思われた。
我々の知らぬ古代の都市は、この光に満たされ、繁栄を極めていたはずだ。
高くうなる耳鳴りが聞こえ、思わず耳を押さえる。
恐怖を感じながら叫んだ。
「エディックス先生!」
彼は祭壇の前で振り返った。その表情に目を見開く。忘れられない、その表情。
「ハリアー君。君は逃げなさい」
「なぜです……」
彼は答えず「逃げるんだ」と繰り返し、こちらの肩を強く、突き飛ばした。長年遺跡でフィールドワークを続けてきた彼の腕は太く力強い。迷いのない力によろめいたところで部屋を閉じられた。扉に手をかけるが施錠されている。
強化アクリルガラスがはめ込まれた扉越しに、質問を投げ掛けた。
「教えて下さい、エディックス先生!それは何なのですか?」
彼は振り返らずに短く答えた。
「ゲートだよ」
彼の最後の答えは、未だもって謎のままだ。
***
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