2-*Prologue-2

*Prologue-2*


ハリアーは落胆したようにため息をついてみせる。

「君は矛盾している。思い出したくないというならば、なぜ君はここにいる?なぜアヴァンシア教授が世に送り出したマナプログラムを研究し続けている?」

ハリアーが椅子から離れ、机を回ってチェルトに近付く。すらりとした長身に近付かれ、チェルトが半歩下がった。


ハリアーの手が余計な所作なくのばされ、はっとする間もなくIDカードをつかまれる。

「認めたまえ。君は知りたいはずだ」

「調査結果は……見ました。……修復し組み立てた古代のマナプログラムを展開、実行したところ予期しない高エネルギー状態になり周囲の物質を破壊。暴走した原因は定かではないが、マナプログラム修復時に書き換えなどの……ミスを」


「君は大学のスポークスマンか」

再び鼻で笑い、ハリアーが続ける。

「彼ほどの技術者がそんな初歩的なミスをするなど君も考えてはいないだろう。そして、……君は、推理ドラマは好きかね?」

「……どういう、意味です」


唐突に話題が変わり、チェルトが怪訝な顔になる。

いつの間にかチェルトのIDカードはハリアーの指先から解放されていたが、チェルトがそれに気づいたのは問い返してしまった後だった。


「考えても見たまえ。彼は「跡形もなく消え」たのだ。血液の一滴も残さずにね」

「……」

「事故後行われた調査の焦点はエディックス・アヴァンシアの痕跡を探すことに置かれていた。言ってしまえば、探し物は……死体」


しまった、とチェルトは思った。ハリアーの戦略だ。

影を縫い付けられたように、チェルトは動けなくなっていた。鼓動を、震える呼吸を悟られないよう、細い身体に力が入る。

聞きたくない、しかし動けない。

言葉が出ないチェルトにハリアーが続ける。腹立たしいことに、すこし優しげな口調で。


「だが、……私は彼が――エディックス・アヴァンシアが――死んだとは、思っていない」

は、と息を吸い込む音が響いたように感じて、チェルトが身を震わせる。自分の呼吸音に、それ以上にハリアーの発言に驚いた。

「……なぜ、です」

「完全に死体を消すのは不可能に近い。他殺であろうが自殺であろうが、事故であろうが変わらないだろう。それに、彼が最後に何をしていたかは、全くわかっていない。私はそこに何かがあると思っている。私は……君にならそれがわかると思っている」

「そんな……」

「いいか、君は最高のマナ技術者だ。君ほどに自在にマナプログラムを読み解き描ける者はいない」


ハリアーがすぃと動く。

本が無理やり手渡された。不気味なほどに重く感じた。

「この中には事故が起きた研究施設の詳細が記録されている。最奥の部屋に彼はいた。調査で回収された遺物の総量は私が最後に見たものの半分にも満たない。まだ内部には何か残っているはずだ。場所はわかるな」

「私は……」

「彼は「ゲート」と言っていた」

トーンを抑えたハリアーの言葉が、チェルトを黙らせる。

「あの日あの場所で私が聞いた最後の言葉だ。――こうは思わないかね、「扉を開くものにこそ、真実は与えられる」とね」


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