僕と君と、猪苗代(ここ)で……



「今年の文化祭用に製作する映画は……ズバリ『巨大ロボ対大怪獣』モノで行こうと思うが……どうだろうか!?」



 時緒達、特撮研究会部員が注目する中、主水は力強い口調でこう宣う。


 先程から特撮関連の話をする度、主水の瞳は輝く。余程特撮が好きなんだと、時緒は心底感心した。



「巨大ロボ……ですか?巨大ヒーローではなく?」



 最初に主水に質問したのは、二年の〈川北 航平〉という先輩だった。



「ヒーローモノは一昨年に巨大ヒーロー、昨年に頭身ヒーローをやったからな……」

「マンネリの打破で……?しかしロボは?」



 次に質問したのは、二年女子の〈樋口 忍〉だった。


 主水は自信に満ち溢れた眼で、樋口を見て言った。



「エクスレイガに便乗した」

「ゲホッ!?」



 時緒は思わずえづいてしまい、他の部員達の注目を集めてしまった。



「どうした?椎名一年生?」

「意見があるならした方が良いわよ?特撮研究会ウチそういうの大歓迎だから」



 樋口の助言に頷きながら、時緒は意見してみる。



「ロボもカッコいいですが……もっと超常的な存在などが良いんじゃないかと……」

「ほう……?」



 主水は目を強気にぎらつかせ、時緒を睨んだ。



「そう言うには……何が良い案があるんだろうな?椎名一年生?」

「え、ええと……?」



 主水達の視線が、今の時緒には痛い。


 主水がいきなりエクスレイガの名を言うものだから驚いて、更にその驚きをはぐらかす為に言っただけだったのに……。


 脳味噌をフル回転させて……時緒は……



「座敷童子対怪獣軍団……なんてのは如何でしょう……?」



 頭の中で、ピースサインをする知り合いゆきえちゃんを思い浮かべながら、提案してみた。


 勿論、そんな出鱈目な提案が通るとは時緒は思ってなかったが……。


 ………………。


 …………。


 ……。


 十数秒間の静寂ののち……。



「椎名一年!!」



 主水はテーブルを叩いて勢い良く立ち上がり、凄まじい力で時緒の肩を掴む。


 気に障ったか……と時緒は思った。



「俺の企画よりも俄然面白そうだ!詳しく聞かせろ!!」

「……………………へ?」



 その後……。


 時緒の苦し紛れのプレゼンにより、特撮研究会の今年度の製作上映作品名はーー



【巨大座敷童子ゆきえちゃん・会津若松超決戦】に決定した。








 ――ゆきえちゃん本人に出演依頼しないと……。



 主水から夏休み中の活動スケジュールのプリントを貰った時緒は、帰宅の準備をしながら考える。


 昼になって会津盆地の気温はぐんぐん上昇し、校舎を出た時緒は汗を拭いながら、照り付ける太陽にその身を白く輝かせる鶴ヶ城を見上げた。


 本領を発揮した蝉の鳴き声の大合唱が、高く高く会津若松の空に響いていた……。





 ****







【神宮寺さん:約束通り木村くんの家にいます】




 時緒の携帯端末のメッセージアプリに、真琴からメッセージが入ったのは、時緒が乗った磐越西線の車輌が、磐梯町駅を出発した丁度その時だった。



【時緒:了解!あと十五分くらいで到着します!】



 と、即座に返信する。勿論、アニメキャラのスタンプを付けることも忘れない。




「…………」



 ふと、時緒は真琴のアドレス登録欄が【神宮寺さん】のままだったことに気付いた。


 呼び捨てにしてと本人に言われたのだから、勿論こちらも【まこと】に変える。



「〜〜〜〜っ!」



 決して悪くはないこそばゆさに、時緒はにやけ面で身震いした。近くの座席に居た小学生と思しき男児が、変な目で時緒を見た。


 真琴の名前を平仮名にして登録したのは、時緒自身にもよく分からない照れ隠しだ。



『な、名前で呼んで欲しいの……!で、出来れば……呼び捨てで……!』



 以前真琴に頼まれた時の緊張を、時緒は今も覚えている。



『ま、ま、ま、真琴……!』

『〜〜〜〜!』



 初めて真琴を呼び捨てにした時の衝撃もだ。


 それは、エクスレイガのパイロットに許された夜ーー芽依子を抱き締めた夜に似ていた。


 彼女達の距離が近くなる。どぎまぎしたが……それでも、甘くて……癖になってしまいそうな感覚だった……。




『他人との関わりを……友達を……好きな人をたくさん作りなさい。その人を護りたいと思った時……君は誰よりも強く、疾い刃となる……』



 時緒は、自分が今知り得る最古の記憶を思い出す。



 はて?誰の言葉だったか?師匠の正直まさなおではなく、別の男の人だったような……。


 大きな手で、幼い時緒の頭を撫でて……。



礼我レイガ……【礼を以って我と成す】。ママと仲良くな……トキオ……』



 その大男ひとは切れ長の瞳を更に細めて、寂しげに、笑っていた――。




 ****




『猪苗代駅〜。猪苗代駅〜』



 駅の改札を抜け、構内の野口 英世博士の等身大ポップに一礼。駅前のロータリーを軽快に駆け、澄み渡る青空に映える磐梯山を眺めながる。気持ちが良い……!



「ごめんください!」



 時緒は【準備中】と立て札が掛けられている【きむらや】のドアを開ける。



「トキオうゅ〜ん!トキオもギョーザ作るうゅ〜!」

「ティセリアちゃん!髪に餃子の皮付いてるよー!」

「…………!」



 顔面を小麦粉で真白にしながら笑うティセリアと、修二と、ゆきえがいた――。



「やっと来たな!時緒!」

「もうトキオさんてば遅い!イオリ様ずっと待ってたんですよ!」



 きむらやのサロンを身に付けた、伊織とコーコがいた――。



「おい……何でお前が作るギョーザの形はそんなに卑猥なんだ?」

「ふ……食欲が唆るだろう?」

「ふはは!全然皮が畳めない!美しくない!ふはは……はぁ……」



 律、正文、カウナがいた――。



「にゃー!佳奈美スペシャル餃子完成ー!!」

「流石カナミさん!ギョーザの中にグミを入れるなんて!誰にも真似出来ない素晴らしいギョーザですっ!!」



 佳奈美、ラヴィーがいた――。



「むぅ……難しい……訓騎院の卒業実技試験よりも難しいぞ……」

「シーヴァンさん……不器用過ぎます……」



 シーヴァンが、リースンがいた――。



 皆、この猪苗代で出会った、この猪苗代で戦った……時緒の大切な、大好きな仲間達だ。


 そして、時緒は――。


 思うだけで、平常じゃいられなくなる……、居てくれないと、寂しくて堪らなくなる……とても……とても大切で愛おしい二人の少女に笑いかけた。



「お待たせ!芽依姉さん!真琴!」



 亜麻色の髪をなびかせて――。


 眼鏡の奥の円らな瞳を輝かせて――。


 時緒の前で、餃子を作る芽依子と真琴の、二人の満面の笑顔が咲いて輝いていた。




「「おかえりなさい!時緒くん!!」」




 時緒は信じる。


 護る者はとは、守られる者。


 芽依子が。真琴が。皆が。


 笑って見守ってくれるから。



 時緒は戦える。



 時緒は戦い続けられる。



 愛と生命が燃ゆる。この自然溢れる、猪苗代で――。



 時緒はこれからも、愛と勇気と闘志を胸に戦い続ける。



 防衛騎甲【エクスレイガ】に乗って――。


















『シェーレ卿!シェーレ卿!貴卿の出陣命令は出ていない!繰り返す!貴卿の出陣命令は……』



 有る所で……。



「うるさいっ!シェーレ・ラ・ヴィース!全てはメイアリア様をお救いする為に!【レガーラ】……出陣する!!」



 無骨な操縦室で一人。魚めいた尾鰭を持つ少女シェーレは、使命と怒りが同居する桃色の瞳を燃えたぎらせていた。












「大竹 雄二一等空尉……並びに久富 俊樹三等空尉……以上二名を……防衛軍極東支部函館基地、新型機動兵器メガゾード【K.M.X】運用実験部隊、【ブラック・バスター隊】への転属を命ず!」



 有る所でーー。



「「………………は!?函館!?」」



 突然の勅命に、大竹と久富は戸惑いの表情で顔を見合わせていた。













「アシュレア皇太子?本当に地球へ行かれるのですか!?皇帝陛下の御許しは!?」



 そして、また有る所で――。



「馬鹿野郎!親父の許可なんか待ってたら戦争終わっちゃうだろうがッ!これ以上メイアリアに……あの愚妹に俺のトキオを好き勝手にされて堪るかよ!出陣したモン勝ちだッ!さっさと【ニアル・ゲイオス】の発艦準備をするんだよッ!!」

「レ……了解レーゲン!!」



 その少年は、いけ好かない双子の妹メイアリアと同じ銀髪の長い髪をなびかせて。


 格納宮で眠る……黒曜の装甲を纏う巨人を見上げた。



「…………さぁてと…………、久しぶりの地球だ……!お前も早く暴れたいよなァ……なァ……?〈ガルムレイガ〉……!」












 防衛騎甲 エクスレイガ 《空想科学青春期》



 第一部 完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

防衛騎甲 エクスレイガ 《空想科学青春記》 第一部 比良坂 @toki-315

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ