胎内記憶とジャイアントパンダ(202106)
胎内記憶、というものをご存じだろうか。
子育てを経験された方は、一度くらい聞いたことがあるかもしれない。
憧れを抱いている人もいれば、懐疑的な人もいる話題であるが。
ともあれ。
胎内記憶とは、子どもが母親のお腹の中にいた時の記憶のことだ。
お腹の中でどうしていたかとか、生まれたときがどうだったかとか、そういうことを覚えていることがあるらしい。
成長するにつれてその記憶は薄れていくが、3歳くらいまでは覚えているとか、なんとかかんとか。
その神秘的な記憶を知りたいと、記憶が消えてしまう前にと子どもに尋ねてみる親もそれなりに多いようだ。
とはいえ、そこは幼児である。
絵本やテレビから影響されて話をしたり、「お腹から生まれた」ということを聞いて想像でお話を作り上げることだってあるだろう。
以前だって息子は、
「パパとじぃじとばぁばと、アフリカに行ってきた」
と保育園の先生に話していた。
コロナ禍じゃなくても、アフリカなんぞそうそう行けない。
(多分サファリパークのことだと思われる。
とても余談だけど、サファリパークは自家用車で行くなら感染リスクとかほぼほぼ考えなくていいのですごい良い。
夫の車、ニホンザルにアンテナむしられたけど。)
それに前には、
「ママお菓子取っちゃ駄目でしょ!!!」
と寝ぼけた息子に叩かれたことがある。
ママそんなことしてない。ぬれぎぬ。
なので私としては、
「面白いけど、無理に聞いてもお話を作っちゃいそうだしなー。
もし何か話してくれたら、仮に創作だったとしてもその事実が楽しいなー」
というスタンスでいた。
そして先日、子どもたちのお風呂上がり。
転がりまくって保湿から逃げ延びる娘ちゃんと格闘していると、唐突に夫が言った。
「そういえば話したっけ? 息子が、ママのお腹の中にいること覚えてるって」
なんだって?
初耳ですわよ!?
どうやら息子は、お風呂に入っている時などに、夫に話してくれたらしい。
しかも一回ではなく、何回かそれを語っているらしかった。
何故ママではないのか。
それはお風呂担当がパパだからであるぐぬぬ。
ともあれ息子の話によれば、
・ずっと暗いところにいた
・暗いところから外に出られて嬉しかった
というようなことを話していたそう。
わあお! 面白いな!
これが本当に胎内記憶というものなのかは分からないが、外に出られて嬉しかった、というのはなんだか息子っぽい。
出産時、息子は申し訳程度に一声二声泣いたかと思ったら、お腹の外に出たという事実に瞬時に適応し、即寝した人物である。
生まれたときから泰然自若としている。
一方の私は、泣き声がすぐに聞こえなくなったことに「何かあったんじゃ!?」とビビっていた。寝てるだけだった。
息子の胎内記憶エピソートにわくわくしている私を見て、夫がテレビを観ている息子に尋ねてくれた。
「明、ママのお腹の中にいた時のこと覚えてる?」
「覚えてるけど」
即答し、息子はテレビを観たまま続ける。
「今はジャイアントパンダが……」
完全に小学館の図鑑NEOの動物DVDに釘付けだった。
車ブームから、現在は動物ブーム中の息子。
毎日お世話になってます。
そうだね。
ジャイアントパンダの方が大事だね。
間違いない。
コロナ禍が収まったら、上野動物園に行ってパンダ見ようねぇ。
子守唄にはまだ早い(仮) 佐久良 明兎 @akito39
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。子守唄にはまだ早い(仮)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
日記と呼ぶには烏滸がましい/佐久良 明兎
★4 エッセイ・ノンフィクション 連載中 19話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます