第7話 生活魔法と魔導書
うえっ、ほこり臭いなぁ
埃まみれのアンティークな棚や本がたくさん並ぶ倉庫のような部屋でケホケホと咳き込む。
カフラさんはそんな部屋の中でゴソコソと何かをさがしていた。
かれこれ30分ほど待っているというのにまだ見つからない。
暇だなぁ。
俺は近くにある棚の本を暇つぶしに眺める。
『クルーガン英雄伝』
『魔物モンスター全集』
『回復薬の生成~初級編~』
割と様々な本が置いてあるんだね。
伝記から教本までいろんなものがあった。
「ん?」
太めな本が並ぶ中、一つだけ薄めの本があったのでそれを引き抜いてみる。
「ふぁ!?」
驚いて冊子を落とす。
それは所謂いわゆるエロ本というもので、表紙には触手に弄ばれるエルフが描かれていた。
こ、この世界の人達もこんなこと思いつくんだね…
幼児の体なので興奮はしなかったが、中身は16歳、気になって仕方がない。
ちょ、ちょとだけ…
チラッと冊子の中を覗こうと1ページ目を開こうとしたときだった。
「夏目様! みつけましたよぅっ!!」
カフラさんの声が部屋に響きわたる。
「はぇ!?」
どこぞのマジシャンもびっくりするような速度で冊子を棚の隙間にすべりこませた。
中々良い動きが出来たと思う。
どうしたのですかと問われたが、何でもないよ~とポーカーフェイスで隠し通す。
やばいやばい、見られるとこだったよ…
どうやら探し物が見つかったようで、カフラさんの手には古く薄汚れた本が握られていた。
「これが生活魔法の魔導書です。私はこれで生活魔法を習得したのですよ。」
へぇ、これがそうなのかぁ。
確かにその本には
『非魔法スキルの貴方にもできる!~ゴブリンでも分かる生活魔法~』
と書かれている。
言語能力Lv1で自動的に翻訳されるから、問題なく読むことが出来た。
それにしても、もっと良いタイトルはなかったのかな?
ゴブリンでも分かるってなんか微妙な気持ちになるんだけど。
カフラさん曰く、案外ちゃんとした魔導書だそう。
ほんとかなぁ?
俺達は練習をするために教会の裏側の庭に移動した。
「それでは私がお手本を見せますね!」
そう言って彼は指をたてて、詠唱をはじめる。
これは俺にもつかうことができる魔法なのだちゃんと見ていなければ!
ドキドキとその詠唱が終わるのを待つ。
「赤き火よ、我が言霊ことだまに集つどいて力を現あらわせ!! ファイアー!」
すると、爪の先にポッと蝋燭サイズの火が灯った。
・・・なにこれ、しょぼっ
ファイアーとか言ってるけど、全くファイアーしてないじゃん!!
ちょっと期待外れだなぁ…
そういえば記録係の人が火種くらいにしかならないって言ってたっけ。
すっかり忘れてたよ。
明らかにガッカリとした俺を見て、カフラさんがしょぼんとする。
「そうですよね… ショボいですよねぇ… なぜ皆さんはこの生活魔法の素晴らしさが分からないのでしょうか…」
グチグチと言いながら庭の端で土いじりをはじめたので、慌てて慰めた。
生活魔法は素晴らしいですよ! 的なことを言ったら「そうですよね! 生活魔法は凄いものなのですよ!!」とすぐに復活してくれたのだけど。
カフラさんは『単純で面倒くさいタイプの人』だと頭のすみにメモしておこう。
気を取り直して、説明を聞く。
どうやら生活魔法には、『ファイアー』以外にも、『ウォーター』『ウィンド』『クリーン』『ソイル』とあるらしい。
そのどれにも、さっきのような詠唱があるのだという。
つまり、詠唱をすれば使えるということかな?
俺もさっそくカフラさんのまねをして、詠唱する。
人さし指をたてて、格好よく前につきだした。
「 あかきひよ、わがことだまにつどいて、ちからをあらわせ!ふぁいあー!!」
自分は魔力量が多いから、もしかしたら生活魔法よりも大きな魔法が使えるかもしれない!!
そう期待していた。
シーン
・・・?
だけど、いつまでたっても魔法は発動しない。ただ立ち尽くすのみとなってしまった。
カフラさんはそんな俺の姿を見てあはッひひひっと変な声をあげて笑う。
なんだよこれ、恥ずかしすぎるんだけど!
羞恥心が顔を赤く染め上げる。
穴があったら入りたい…
こんなことなら格好つけなきゃよかった…
笑いすぎて、息絶え絶えになったカフラさんが解説してくれた。
「ハアハア…な…夏目様、生活魔法は他のスキルと違い、詠唱以外にも…、魔力操作というものが必要になるのですよ。それだけでは、発動しませんよぅ。」
「はやくいってくだちゃい!!」
そう言ったら、説明する前にしたのはあなたじゃないですか、と言われてしまった。
はい、そうです、俺の所為ですね。
すみません。
その後も魔力操作を教えてもらうのだった。
◇◆◇
チュンチュンと雀に似た鳥の声が聞こえる。
日が差し込んできてまぶしい。
はっ、ととび起きると、グゥとお腹が鳴った。晩御飯を食べてない所為だなと思う。
昨日、教会から帰ってきた後すぐ寝ちゃたからなぁ。
結構、魔力操作というのは体力消耗が激しいんだよね。
魔力は心臓付近に固まっているらしく、それを循環させることで生活魔法が使えるようになるらしい。
そうカフラさんに教わった。
生活魔法の魔導書まで譲って貰っちゃてなんか申し訳ないよ。
大切につかわなきゃね。
フンッと気合を入れて、朝ご飯前の訓練をしようと意気込む。
胸に手をあてて集中をはじめると、何かねっとりした感覚があることに気づいた。
昨日は上手く行かなかったけど、今日は調子が良いみたいだ。
心臓付近…ということは血液の流れ方で考えればいいんしゃないの?
そう考え、心臓から全身へ、手や足などを巡り、そして心臓に戻っていく、
そんなイメージを持ってそれを動かしてみる。
そうすると、まだぎこちないけど、魔力を動かすことが出来きた。
ふぉおおお!!凄い!
体全体に少しづつ、とろとろと染み渡っていく。そんな不思議な感覚に嬉しくなる。
「やった-!!」
普通の人はの魔力操作に数ヶ月の期間を要するのだが、夏目がそんなことを知るはずもない。
俺はスキップをしながら食堂へ向かうのだった。
◇◆◇
目的の場所につくと、もう多くのクラスメイトが朝食を食べ終わり、デザートに突入していた。
今日は美味しい、美味しい、プリンの日である。
上機嫌の俺はルンルンで食堂のドアをあけた。
そこへ召使いが困ったような表情でつげる。
「すいません、他の勇者様が思ったよりもお代わりしてしまい、夏目様の分のプリンが無くなってしまいまして…」
え、俺だけ無いの!?
楽しみにしてたのに!
チラッと神崎の方を見ると、取り巻きの女の子達とともにたくさんのプリンを食べていた。
犯人はお前かぁあああ!!
恨みがましく神崎を睨む。
…まあ、取り返したいところだけど、そんな勇気はないんだよね。
はぁ、いいなぁ…
小心者の俺はコソコソと端っこの席に座るのだった。
朝ご飯は以外にもお味噌汁とご飯でした。
ホームシックになった生徒が再現して作らせたらしい。
美味しいけど、これ、お味噌汁じゃなくてお吸いものっぽいなぁ。やっぱり味噌は存在してないみたいだ。
あープリンが食べたい。
プーリーンー。
ずるーっと机に倒れ込む。
突然、隣からコトンと音がしたのでそちらの方を向くと、そこには島原がいた。
今日は北条さんといっしょじゃないんだね。
「これ、前のお詫び。」
机にはプリンが置かれている。
「ふえ?!もらっていいの!?」
凄い嬉しいんだけど!
この時、俺はこれまでにないほど、目がキラキラしてたと思う。
いいよと言われたので、一口食べる。
その瞬間、口の中にトロっとした甘味が広がった。
ああっ、もう溶けて無くなっちゃたよ。
その美味しさに頬を緩ませる。
「ありがとうっ!!」
島原に満円の笑みでお礼を言う。
「いい、お詫びだから。」
そのとき、彼女がふんわりと微笑んだ気がして、思わず二度見してしまった。
…気のせいだったのかな?
それが見えたのは一瞬だけで、島原はいつも通り無表情に戻っている。
凄く可愛い笑顔だったんだけどなぁ。
ジーっと上目遣いで見つめてくる夏目を島原は疑問に思うのだった。
異世界にクラス転移したら俺だけ幼児になってたのですが うめりんご @pikokokoa
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