第6話 魔法がつかいたいんです
あれから数日後、だんだんとある気持ちが胸の奥からこみ上げてきていた。
魔法をつかいたい!!
あの北条さんの魔法を見てしまった所為でその気持ちがますます強まってしまった。
だって、一瞬でぶわーって!水ばっちゃーんって!!
前の世界で見た漫画やアニメみたいに魔法が存在するのだ。
これで興奮しない訳がない!
別に魔法のスキルがなくとも、生活魔法は習得できると記録係さんが言っていたからできるはず。
と言っても俺は生活魔法の習得の仕方がわからないので、とりあえずエリサに聞いて見ることにした。
今日はお姫様の傍で護衛をしているらしいから、王宮のどこかにいると思う。
兵士に聞いたらわかるかなぁ。
そんなことを考えていると前から兵士が2人ほど歩いて来るのが見えた。
「しゅみましぇーん!」
声をかけて兵士達を引き止める。
何かを話していた彼らは俺を見てゲッ、と声を上げた。
少し気になったが、質問を優先させる。
「えりさはどこにいるんでしゅか?」
兵士達は少々顔を引きつらせながら、王宮のテラスで姫様の護衛をしていると教えてくれた。
ありがとうと礼を言って、その場を去る。
兵士達は乾いた笑いを顔に浮かべて、手を振っていた。
なんか失礼な人たちだったなぁ。
さっきのは何だったんだろうか?
◇◆
俺は坊主の後ろ姿を見送りながら、相方に言葉を投げかける。
「さっきのがあのエリサを手なずけた坊主なのか…?」
とてもそうは思えなかった。
艶がある黒髪に潤んだ瞳。
何とも愛らしい顔立ちをしている少年であったから。
「そうだ。あの恐ろしい惨殺のエリサとまで謳うたわれたあいつを、だ。」
相方の顔は青ざめていた。
彼女は昔、盗賊狩りの専門の冒険者ハンターをしており、容赦なく人を斬り捨てていったことで有名なのだ。
成長した勇者のステータスにはかなわないが、彼女はSランク冒険者であった。
普通の人間からするとそれは化け物と言っていいほどである。
王宮では騎士団長に並ぶ実力者だ。
相方が言うには坊主がエリサの頭を撫でていたというのだ。
あり得ない。
俺だったら、同じことをした瞬間に天に召されることだろう。
「その坊主は何者なんだ…?」
知らないうちに夏目はエリサを従える者として、兵士達に恐れられるのであった。
◇◆◇
白く日に照らされたテラスは美しい色とりどりの花々とのコントラストがとても美しい場所だった。
ここだけ見ると、本当に魔王に困り果てているのかと疑問に思うほどだ。
「えりさー?」
どこに居るのかわからないので、名前を呼ぶ。
シュッ
突然、真後ろの茂みから剣が生えてきた。
赤く艶のある刀身がほっぺのすぐ横をすり抜ける。
「ふおぉぉおぅ…」
いきなりのことに口から空気がもれでた。
「ああ、なんだ。幸斗だったのか。」
不審者ではないとわかったのか、エリサは何事もなかったかのように剣を腰にの鞘に戻す。
ちょっ、びっくりさせないでよ!
今の下手したら死んでたよ!?
確かに護衛だから、警戒するのは当然かもしれないけど、顔を確認するくらいはしてほしかった。
今は姫様がいるので、前みたいに撫でて、とは言えないようだ。
少しもの欲しそうな顔をしていたがさっきの仕返しもかねて、知らないふりをした。
少しずれてしまったので、本題に入ろうと話をはじめる。
「えりさは、せいかつまほうをどうやってしゅうとくするのかしってる?」
「知らないな。私は魔法のスキルは持っていないんだ。」
彼女は少し考えてから言った。
「いや、教会にいる神官の一人に生活魔法を習得している変わり者がいたはずだ。頼めばもしかしたら教えてくれるかもしれんぞ。」
変わり者って… その神官がそうなら、俺もそういうことになるの…?
なんだかなぁ…
少し複雑な気分だけど、それでも有力な情報が手に入ったのでよしとしよう!
さっそく行こうと歩き出すとエリサに裾を軽く引っ張られた。
「あ、あのな、き、今日は撫でてはくれないのか?」
犬が耳を垂らしてしょぼーんとしているのを思い出してほしい。
そんな状態で少しだけ期待を込めて見つめてくるのだ。
とても、可愛い。
エリサは甘えるのがとても上手いと思う。
もう、しょうがないなぁ…
髪を崩さないように優しく撫でた。
「えへへ~♪」
エリサは嬉しそうに笑う。
いつも思うけど、撫でてるときキャラ変わってるよね?
こっちが素だったりするのかな?
ふと、そんなことを考えながらエリサを眺めていた。
「あら~エリサもそんな顔するのねぇ。」
のほほんとしたお姫様の声にビクリと反応する。
次の瞬間にはキリッとしたエリサに戻っていた。
お姫様にばれたのが恥ずかしかったのか、顔はまっかっかなのだけど。
俺はエリサにお礼を言って、あの真っ白な教会へと足を運んだ。
◇◆◇
ここに来たのは召喚されて来たとき以来だ。
この前は適当に見ていて気がつかなかったが、中心にそびえたっているステンドグラスはとても鮮やかで、繊細なものであった。
大きな木の真ん中に前の世界でいう、聖母マリアみたいな人がたっていて、その木の周りに天使ならぬ、精霊達が飛び交っている。
その美しさに圧倒された。
そういえば、教室に現れた魔法陣はこのステンドガラスによく似ていたなぁ。
それも何か関係あるんだろうか。
「素晴らしいでしょう?私達の生活を支えてくれているのはあの聖樹様なのですよ。」
気がつくとおっさんが隣にいた。
え、いつからいたの?
気配感じなかったんだけど。
彼は神官服を身にまとっていたので、この教会の神官だということがわかる。
「今日は何のためにお越しになられたのですか?夏目様」
おおう、もう名前まで知ってるんだ…
彼の情報把握能力の高さに驚く。
ていうか、聖樹様って誰?神様じゃないんだね。
ほかにも聞きたいことはたくさんあったが、今は我慢する。
「まほうをしゅうとくしたいんです。」
そう真剣な目訴える。
「…ですが、夏目様は魔法スキルをお持ちでないのでは?」
そんな風に返されてしまった。
まあ、普通そうだよね。
この世界の常識ではまず、生活魔法を覚えようなんて人はいない。
どれも自分たちの手で事足りるからだ。
覚える必要なんてない。
だけど、
「それでも、まほうがつかいたくてここにきたんでしゅ!」
そう、強く言った。
遠回しに生活魔法が教わりたいと言ったのだけど、伝わってるかな?
神官はふるふると震えながら、すごい形相で俺の両手をがっしりと掴んできた。
怒られるのかと思い、ぎゅっと目をつぶる。
「素ん晴らしいじゃないですか!!」
だけど待っていたのは叱責ではなく、賞賛だった。
「…へ?」
「ですよね!そう思いますよねぇ!」
神官は興奮気味に俺の手を上下にブンブンと振る。
手が痛いんですけど!
ストップ!ストップ!!
握手?をした後、神官は胸にある植物を巻き付かせたような十字架に手を添えて、言った。
「申し遅れました。私はここで大神官をしております、カフラ・ケモンスです。」
・・・え?
ちょっと待って、
神官じゃなくて、だいしんかん?
なんか今耳を疑う言葉がきこえたんですが。
「いやぁ、私も魔法スキルがなくてですねぇ。聖樹様のお声がちょっと聞こえるスキルを持っていたので、大神官になれたのですが、魔法がつかえない私は他の人が羨ましくて羨ましくてしかたなかったんです。
そして出会ったのが生活魔法だったのですよ!」
思考が追いつく前に、ペラペラと喋りはじめるカフラさん。
ていうか、神様的存在の声を聞く方が凄くないですか?
ポカンとあっけにとられる俺をよそに話は続く。
「魔法をつかいたいんですよね?私はその熱意に感動いたしました!教えてさしあげましょう!!」
知らないうちに魔法を教えてもらうことになってしまった。
とても喜ばしいことだと思う。
けど、なんか心配だなぁ…
「さあ!!これから楽しいですよぉ!!」
生き生きとした表情のカフラさんに手を引っ張られて俺は奥の部屋につれていかれるのだった。
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