第5話 クラスメイトがチートすぎる
使用人達がせかせかと働いている間。
俺は、王宮の庭の端で再び鑑定の練習をしていた。
「かんてい」
小さく淡い、青色の花の咲く花壇の前でウインドウを展開する。
『アジュリ草』
うーん…
相変わらず名前しか分からないなぁ…
唯一分かったのは、鑑定スキルは魔力を使わなくても行使できるということと、展開したウインドウに触れることができるのは俺だけということくらいだ。
え?役にたたないのに何故するのかって?
暇だからだよ。
ほんとに何もやることがなくて退屈なの!!
使用人達は優しくしてくれるけど、仕事が忙しくて子供にかまっている時間なんてないからね。
会ったとしても挨拶してくれるくらいだ。
あー家に帰りたい…
王様は魔王を倒したら元の世界に戻れると言っていたけど本当なのかな?
それも文献に書いてあったとか聞いたけど。
まあ…勇者召喚は禁術だって聞いたし、文献に頼りすぎるのもしょうがないのかもしれないなぁ。
帰れるかなんて半信半疑だよ。
「勇者様方がもうすぐお帰りになられますー!」
遠くから若い騎士の声がとどいたと思うと、いたるところから使用人達の急ぐ足音が聞こえた。
勇者達が一旦の休憩で訓練場から帰ってきたみたいだ。
毎回並んでのお出迎えは大変だよね!
いつもお疲れさまです。
そう心の中で労りつつ、俺もクラスメイトの元へと歩いていく。
広間につくとそこには、疲れながらも嬉々とした表情の生徒達がいた。
皆は汗を拭ったり、飲み物を飲んだりしている。
この休憩が終わればすぐに訓練場に戻ってしまうみたいだ。
「ただいま夏目くんっっ」
後ろから北条さんが飛びついてきた。
「あのね、あのねっ私魔法使えたんだよ!! それでね! 精霊さん達が可愛くてっっ」
そうだね、ここに精霊さんよりも可愛い天使がいるよ。
はしゃぐ北条さんが可愛いすぎてし失神しそうになった。
けして、突進してきた衝撃の所為だからではない。
「おかえりなしゃい。よかったね」
そう言ってニコッと笑い返すと、もう一度強く抱きしめられた。
「ああ、もう! 精霊さんも可愛いけど、夏目くんにはまけるっ!!」
今日はテンションが上がっているせいか、スキンシップが多い気がする。
胸が頭の上でポヨンとのっているのはわざとですか? 北条さん。
ストンッ
流れるような動作で膝の上に座らされた。
あれ、俺って(精神年齢)16歳だよね?
なんか子ども扱いされてない!?
北条さんは俺の頭をなでる。
あー幻聴かな?
神崎の方から歯ぎしりが聞こえるんだけど。
「勇者方。訓練に戻られて下さい。」
そう言われたので膝からおりようとしたら、パン!と手を合わせて北条さんは思いついたように言った。
「夏目くん。一緒に訓練場に来てみない?きっと楽しいよ!」
本当はスキル使ってるとこを見てしまうと劣等感を感じるからあまり行きたくはなかったのだけれど、
満面の笑みを向ける北条さんを俺は断ることが出来なかった。
◇◆◇
クラスメイトが魔法や剣の練習をはじめようとそれぞれの騎士たちのもとに歩いていく。
北条さんと別れたあと、俺は見学するため端っこの方でその様子を眺めていた。
「夏目君、久しぶりね!」
声の聞こえた方に向くと、担任の先生である波多野加奈が笑顔を浮かべて立っていた。
召喚以降会っていなかったので随分と懐かしく感じる。
「先生、いろいろびっくりしちゃったわ~ 夏目君ったら子供になってるんだもの。…大丈夫なの?」
急に真顔になって聞いてきた先生に少し引きながらも答える。
「だ、だいじょうぶでしゅよ。どうしてこうなったか、おれもわかんないんでしゅ。」
本当にこればかりは謎すぎるんだよなぁ。
あの後も称号を唱えてみたりとか、ステータス画面を連打してみたりとかいろいろしたけど、結局手がかりはなし。
いろいろと不便だし、早く元に戻りたいよ。
話をしていると向こうから騎士が先生の名前を呼びながら手を振っていた。
「あ、ハザスに呼ばれたから行ってくるわね!」
わー、名前で呼び合ってるのかー。そうなのか-。
先生は茶髪イケメンと腕を組んで、自分達の訓練場所に向かっていった。
なんか複雑な気分…
「訓練はじめ!!!!」
2人の後ろ姿を見送った後、騎士団長の声を合図に訓練は再開された。
剣を使う生徒達は騎士と剣をまじあわせ、打ちつけ合う。
おおっ、なかなかの迫力だなぁ
騎士達は涼しい顔で相手をしているが、薄く汗が滲んできている。
・・・
ていうか、皆動きおかしくない?
普通はそんなふうに動けないでしょ!
神崎は騎士団長相手になかなか上手く立ち回っている。
勇者はステータス高いと知っていたけど、ここまで差が出てくるものなのか…
自分の無能さをしみじみと感じていると、後ろからパァン!と破裂音が聞こえた。
バッシャァァァァアアアアアン!!
「ふぁ!?」
それとともに大量の水が頭に降り注ぐ。
え、いきなりなんだよ!
なに!?新手のイジメ!?
「ごめん、ミスった」
ショートカットの女子が謝ってくる。
どうやらイジメではなかったようだ。
えーっとあれは……島崎だっけ?
確か北条さんの友達だったはずだ。
常に無表情な人なんだよね。
あんまりクラスメイトの名前覚えてないんだよなぁ…
出だしに風邪ひいて寝込んだせいで友達づくりに失敗したから…
島原は魔法に失敗してしまったらしく、あたりは俺を含め、水浸しになっていた。
どんな魔法使ったらこんなにことになるんだろうか。
「あやのー大丈夫~?」
北条さんがかけよってくる。
「わ、夏目くんびしょびしょだね!!」
そう言って服の水分をしぼる。ボソッと、水がしたたってるのもいいなぁ、と聞こえたのは気のせいだと思う。
「これじゃ、時間かかる。魔法で、かわかしたら?」
「!あやの天才!!」
島崎の提案が良いと思ったのか北条さんは魔法の詠唱をはじめた。
「神より使えし緑と大気の精霊たちよ…祖の風の力を与えておくれ…私の魔力と引き替えに!
風の精霊シルフ!!」
ほんのりとした魔力が手にやどり、魔方陣が展開される。
するとふわっと透明感のある少女が現れ、ビュウッっと風が吹き抜けた。
少女の操る風によって、どんどんと服は乾いていく。
水浸しだった床やびしょびしょだった服は数秒もしないうちに綺麗になってしまった。
えっ…ナニコレ……
あまりにも非常式な光景に俺は口を開けてポカーンとしてしまう。
風の精霊シルフは俺のほうを見て少し驚いたような顔をした。
そわっと風がふき、耳元に音が流れ込んでくる。
『聖樹の子が現れたっていうのは本当だったのね…』
確かにそれは聞こえた。
・・・
ん?はい?聖樹の子ってどういうこと?
「精霊さん~可愛いなぁ♪」
北条さんが精霊に抱きつく。そして頭をくしゃくしゃとなで始めた。
『ちょ、やめなさいよね!!』
・・なんか嫌がってるけど大丈夫なのかな?
シルフは腕からスルッと抜け出し、北条さんにあっかんべーをかまして消えていってしまった。
「ああ~」と北条さんは残念そうな顔をする。
声は俺以外には聞こえてなかったみたいだ。
何事もなかったかのようにみんな訓練に戻っていった。
…今のは?
聖樹の子、という単語は見たことがある。
俺の称号で『聖樹の落とし子』っていうのがあった。
もしかしたら精霊は俺が子供になった原因を知ってるのかもしてない。
そうなのだとしたら、いろいろ聞いて見たかったのになぁ。
そうして、この世界ではじめて見た魔法を思い出す。
圧倒的な力をあやつるところを見て再び思うのだ。
ねえ、みんなチートすぎやしないかい?
いつか、近々役立たず!って放り出されそうなんですけど。笑
そんなフラグっぽいことをたてつつ彼らを眺めた。
ああ…うらやましいなぁ魔法。
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