加筆 本当の終章

 憎い。

 いや、憎くなんか思っていない


 許して欲しい。

 許すに決まっている。……いや、そもそも許しを請う必要なんかない。


 永遠の孤独にも耐えられる。

 お前の孤独は、永遠なんかじゃない。


 怨嗟の感情を残し、男は消えていく。

 怨嗟の感情などなかった。あったのは……ここに彼女を独り置いていく俺の無力感だ。

 

 男はここに来る途中、ゴミの山から拾った見覚えのある本を閉じる。

 本当に、本当に馬鹿な女だ。

 何も分かっていない。

 

 俺のことも、この世界のことも。

 だがそれも仕方ないだろう……彼女はずっとここに居た。たった独りで。

 だから、伝えなければならない。


 俺は彼女を憎んでも恨んでもいないこと。

 この世界に生き残った人々が、逞しく生きていること。

 まだ、世界には美しき風景が残っている。

 ……この世界は終わってなどいない。


 だから、彼女に罪などない。

 だから……彼女が罰を受ける必要など、全くないのだ。

 それを教えてやらなければ。


 そう思い、俺は重く大きな扉を押し開く。

 扉を開けたその先、薄暗い部屋の真ん中に、俺の世界があった。

 そして、その真ん中には、驚き目を見開く一人の観察対象(少女)。


 ……何を驚いているのやら。

 まさか俺がここにこないとでも思っていたのだろうか?

 だとしたら本当に馬鹿だ。


 俺が本当に求めた世界は目の前にある、たった15cmの小さな円だけだというのに。

 だけど……それだけでは物足りない。

 だから彼女を連れ出そう。

 

 15cmでは足りない。この部屋でもまだ狭い。扉の外につながるこの広大な世界に、彼女を連れ出そう。

 そして、外の世界を知った彼女の反応を観察してやろう。

 

 彼女の後ろではなく、彼女の隣で。

 独り言ではなく、彼女と対話しながら。


 そう思い、俺はゆっくりと歩を進める。

 それを見た少女の目に、大粒の涙が浮かぶ。


 俺がその後なんと声をかけたのか、彼女がどういう反応を示したのか、それを書き記すには、もうページが足りない。

 続きは、少女の観察日誌第2巻に記すとしよう。

 

 ……まぁ、紙とペンがあればの話だが。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少女と15cmの世界、観察日記 谷宮 礼二郎 @rayz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ