終章

「あなたをいつまでもここに縛っておくわけにはいかない」

 …………。


「あなたの言葉を私が綴ったこの観察日誌も、ここで終わりとなる」

 …………憎い。


「だから……あなたは元の場所に戻って」

 ……憎い。


「あなたが目覚める場所……その近くにも何人か生き残った人がいるはず」

 憎い。


「……どうか……」

 憎い!


「どうか、この滅んだ世界にあなたを放り出すことを……許して欲しい」

 憎い憎い憎い憎い憎い!


「あなたが私を憎んだとしても……恨んだとしても……私はあなたに生きていて欲しかった」

 憎い憎い憎い憎い憎い!


「あなたが生きていると知っているだけで……私はこの永遠の孤独にも耐えられるから……」

 憎い!


「……だから、さようなら」

 その言葉を最後に、怨嗟の感情を残し、男は消えていく。




 …………この章に記された言葉に関してのみ、私の想像で書かれた言葉だ

 ここに至るまで文章は全て、私に聞かれていないと思っていた彼のこぼした言葉。

 それを私が、暇をつぶすためにただ書き連ねたもの。


 だが、彼が消える直前には、彼の言葉はもう私には届かなかった。

 そして、彼が居なくなった今、彼が最後にどんなことを思ったのか……それを知ることはできない。

 ただ、それでも容易に想像できる。


 彼はきっと、私を恨んでいるであろう。憎んでいるであろう。

 この世界を滅ぼし、彼をこの退屈な世界に縛り付け、あまつさえ全てが終わってしまった何もない世界に彼を一人放り出してしまった、この罪深き私のことを。


 …………さぁ、観察者(彼)が居なくなった以上、この観察日誌もここでおしまいだ。

 ……本当に……本当に名残惜しいが、これがあっては私はまた、彼にすがりたくなってしまう。

 

 だから……ここらで一度筆を置き、この本は捨ててしまおう……。

 きっと……それがいい。

 私はまた……独りで終わらぬ暇を持て余そう。 



 そして少女は、静かに閉じた本とペンを、部屋の外につながる、もう機能していない小さなダストシュートに、そっと投げ込んだ。

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